Trouble in Paradise!!

 第14話 (2)
案の定、その後のあかねは、始終落ち着かなかった。
夕餉の席でも、出て来る話題は友雅のことばかり。次々に人を変え、容赦ない連続攻撃で質問が投げかけられる。
それを、自分で受け答えしなくてはいけないのだから、心労は半端じゃない。

「しかし、私は全く存じ上げませんでした。嵯峨野に同行させて頂いたにも関わらず、屋敷の中に友雅殿の慕われる姫君がおられたとは…」
「あ…ほら、主上の遠縁のお姫様ですからね、お部屋から殆ど出たりしなかったんですよ!だから、あまり姿を見た人はいないんじゃないかな!』
頼久を納得させようと、あかねは必死だった。
部屋から出ることがなかったのは、本当。
むやみやたらに姿を見られても、あとあと面倒で困ったことになりそうだから。
っていうか、その場ではじめて"主上の遠縁の姫君"という肩書きが生まれたで、その姫君の存在を知る者は少ないだろう。

「ね、あかねちゃん、お姫様って綺麗な人だった?」
「え…それはー……まあ、個人個人の価値観も美意識も違うから、なんともー…」
自分を美人だとか綺麗だとか、そんなこと嘘でも言えやしない。
それじゃただの,ナルシストじゃないか。
「ですが、友雅殿のおっしゃるところでは、愛らしい姫様だと申されておりましたわね。」
「あー、そ、そうなのかなあ…」
頭をぽりぽりと掻きながら、あかねは何となく照れくさくて、むずがゆかった。
それを友雅が本気で言っていたのなら…嬉しいのだが。
「はあー…じゃあナンだ…お姫さんてのは、俺らと対して年が変わらねえってこと?」
「う、うん…私と同い年だった、よ」
そりゃあそうだ。それこそ、天真の目の前にいるあかね自身なのだから。

-------という感じで、自分のことを尋ねられながら、自分のことを話せない。
虚構の自分を説明しなくてはならないのだ。我に返ってみると、一体自分は何やってんだろうと思う。


「それにしても、本当にご結婚を決意されるとは…よほどその姫様にご執心でいらっしゃいますのねえ…」
妙に感心するように、藤姫がつぶやいた。隣で夕餉の支度をする侍女たちは、少し肩を落として残念そうにしている。
彼女たちも若い娘であるから、友雅が身を固めるという事実を目の当たりにして、いささかショックを覚えているのだろう。
結婚に関しては…別に事実というわけではないが、否定するわけにもいかない。

「噂はいろいろ聞いてるけど、やっぱり友雅さんて…モテたんでしょ?」
食後に出された麦湯で口を潤しながら、詩紋が藤姫の方を見て尋ねる。
彼女は、ちょっと苦笑いをして、こちらを見た。
「まあ、そうですわねえ…。華やかな話題が,途切れる御方ではありませんでしたからねえ…」
「つまり、簡単に言えば女たらしってことだろ?」
遠慮のない天真の言葉は、時にかなりショックを与えてくれる。
チクチクと細かい矢が、胸の中に突き刺さるような感じだ。
「あっちこっちの女に手え付けて、遊びまくって、また他の女んとこに出掛けてって…ってさ」
「天真先輩ー…」
咎めるような、あるいは呆れるような目で、ちらりと詩紋が天真を見た。
あかねとしても、軽く天真を小突きたい気分にかられたが、大げさにリアクションをしてほころびが出来ると困るので、ここは我慢して黙っているしかない。
とは言っても、気分的には面白くない。
これが結構ストレスになるのだ…。

「ま、でもさあ、あいつのことだから結婚しても、いつまで持つかわかんねえよな。他に女を作ることだって、ためらいなんかなさそうだぜ?」
「天真先輩、いくら友雅さんがここにいないからって、言い過ぎだよー」
「だって、どっちみちそういうのが、こっちじゃ当たり前なんだろ?」
そう詩紋に言い返すと、天真は藤姫たちの方を見た。
自分たちは現代で生まれ育ったから、そんな習慣は信じられないけれど、彼女たちは生まれた時からそれが常識だ。
「それは…個々の御方の理由がございますから、女の立場では何と申し上げることも出来ませんが…」
困ったように笑って、藤姫は侍女たちと顔を見合わせて言葉を濁す。
誰一人として、それを肯定も否定もしない。
事実ではあっても、やはり女性としては受け入れ難い現実なのだろうか。

「何かさ、あいつみたいなヤツには、都合の良い世界だよなあ…この世界って。」
夕餉を満足行くほど味わって、天真はごろりと横になった。


「あんまり友雅さんのこと、悪く言わないでよ…」
ぼそっと、小さな声で言ったあかねの言葉に、天真は姿勢を変える。
「友雅さんだって、結婚することを決めたくらいなんだから、本気で好きになってるかもしれないんだよ?」
「あー?何よ、おまえ」
天真は身体を起こして、あかねと向かい合った。
急に友雅を庇護するようなことを言って…一体どうしたんだろう?と不思議がる。
「相手のお姫様にも失礼じゃない、そういうこと言ったら。お互いに……本気で…好きなの、かもしれないし…」
「そうでございますわね。双方とも、真剣にお付き合いされているのであれば、これまでの友雅殿の過去を引き合いに出すのは、姫様にとってはご気分が良くないかもしれませんわね。」
藤姫がやんわりとした口調で、あかねの発言を受け入れてくれたので、少しホッと落ち着いた。

でも、天真は簡単には納得していないようだ。
「っていうか、コロッとそんなに性格が変わるもんかねぇ?」
「か、変わるかもしれないじゃない。」
「おまえさあ、そこまで友雅をフォローしたい理由って、何かあんの?」
びくっとしたあかねの肩を、天真は掴んで揺さぶる。
「白状しろっ!やっぱ、あいつに惚れてんじゃないかっ!?おまえっ!」
「ま、待ってよ!ちが…」

-------違わない。本当に…彼のことが好きで仕方がないの。本気で、好きなの。
そう言ってしまえたら良いのに、言えないもどかしさで唇を噛み締める。

「天真、冗談であっても、神子殿に無礼は許さぬ。すぐにその手を離せ。」
頼久の凛とした声が、天真の興奮を一瞬ではね除ける。はいはい、とあかねから手を引いた天真を、続いて詩紋が後ろから引き離した。
すると、若い女性の声があかねに語りかけてきた。
「友雅殿は、殿方としては素敵な方でございますわ。神子様が憧れるのも、無理はございません。」
にっこりと微笑んで答えたのは、藤姫の側にいた侍女の一人だった。
他の侍女たちも、その言葉に黙ってうなづいている。
「確かに、少々お戯れが過ぎるのは頂けませんが、素晴らしい殿方には違いありませんわね。」
「藤姫……」
彼女たちの微笑みが、何故だか胸にじわりと染み込むように暖かい。
いつか、本当のことを知ったら驚かせてしまうだろうけれど…でも、今はその言葉が嬉しい。

「ね、さっき友雅さんが、いつか僕らにも紹介してくれるって言ったよね?」
「えっ?あ…そんなこと言ってた…っけ?」
詩紋が無邪気な瞳を、あかねの方に向ける。
「僕らにちゃんと紹介したいってことは、それだけ本気なんだと思うよ、僕。だって、何だか人前結婚式みたいじゃない?」
「人前結婚式……」
「うん。親しい人の前で、"この人と結婚します!"って宣誓するような。そんな意味で、友雅さんはその人を紹介してくれるって,言ったんじゃないかなあ。」
そう言った詩紋は、にこにこしてこちらを見ているが、一瞬あかねの頭は動きが止まった。
ワンクッション置いて、再び思考回路が動きを再開すると、詩紋が今言った言葉の意味を真っ先に弾き出す。

「え、ちょっと待って…。じゃあ、紹介するってことは…結婚宣言するってことになるの!?」
「わかんないけど…。でも、僕は友雅さん真剣だと思うんだけどな。だって、もう結婚することは決まってるんでしょ?」
予想外の展開。そこまで深く考えていなかった…。

……もしかして、ひょっとして。
まさか、でもそんなことまで…は、考えてないよね…?
あかねは自分に言い聞かせて、迷いごとを振り払おうとする。
その一方で、鼓動がどきどきと早いリズムを鳴らし始める。
噂が噂を呼んで、あっというまに誇張されてしまった二人の仲は、偽りの中では既にそんな関係になっているけれど。
でも…元を正せば、それは自分たちのことなんだ、と気付く。
いくらフィクションでごまかしてみても、あかねと友雅のことには変わりない。
天真たちが耳にしたように、一部ではもう真実としてまかり通ってしまっている。

でも、"あかね姫"なんて、元々存在しない。そんな相手と結婚だなんて、出来ようもない。
詩紋たちに紹介するって…誰を?……自分を?どういうつもりで?
何て言って説明するつもりだろう?

違うよね、うん、いくらなんだって、そんな…。
だって、付き合っていることさえ知らせていないっていうのに。
順番は、まずそこからのはず…。

考えれば考えるほど、波打つ動悸が落ち着いてくれない。


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Megumi,Ka

suga