Trouble in Paradise!!

 第9話 (3)
「はじめは何か、他の人たちとは違って、どんなことを考えているのか分からなくて…正直ちょっと話し辛かったんです。でも、私もここに来て何も分からなかったから、どうする事も出来なくって…。」
あかねは、これまでのことを自ら少しずつ話し始めた。
急に右も左も分からない場所へ、振り落とされて戸惑ったこと。
なのに、急に龍神がどうだとか八葉がどうだとか、全く理解出来ない事を説明されて、しかも自分がこの京を護る力を担っているのだ、とか言われて更に混乱したことなど。

「確かにね…神子の立場になって考えてみれば、さぞ不安だっただろう。ひとつの事も理解しきれないうちに、次から次へとそんなことばかり押し付けられてはね。」
本当ならば、この国の主である自分こそが立ち上がらなくてはならないが、生憎と力が自分にはない。
可哀想だとは思うが、その力を与えられた者に頼るしかないのだ。そしてそれは、不幸にも彼女一人が選ばれてしまった。
気持ちを察すれば、どれほど動揺したか。

「八葉の皆は…それでもこんな私を、命までかけて護るって言ってくれたんです。でも、それは…私には重くって。」
「だが、そのために八葉は存在しているのだよ?」
「頑張ってくれるのは嬉しいんですけど、でも…そのために命を投げ出すのなんて、絶対に嫌なんです。犠牲になんてなって欲しくないんです…」
強い光が、奥底まで澄んだ瞳の中に輝く。
それはまるで、天空で動かずに輝く北辰星のように。

「だからって自分じゃどうすれば良いのか分からないし、何だか八方塞がりで…。それで、悩んでた時に友雅さんが声かけてくれて。」
彼の言ってくれた言葉は、決して一方通行なものではなかった。
答えを与えてはくれない。でも、自分で出さなければいけない答えに続く道を、彼は教えてくれた。
自分が納得する答えが、どうすれば弾き出せるか。
ある意味、あかねにとって一番欲しかったのは、そういう言葉だったのだ。
その時から、彼を見る目が変わったと言って良い。
「何か…もしかして一番広い目で見てくれてたのかな、と思って。ただ、私の存在だけじゃなくって、どうして私がいるのか、とか…私がどうなることが一番良いのか、とか。そういうのを見てて、私が気付くまで敢えて一歩下がって見ててくれたのかなあ…なんて。」

そうしたら、彼の視線が気になり始めた。
彼の見る方向に、もしかしたら答えが待っているのではないかと思って。
彼のことを追いかけた。そうしたら、何故か妙に視線が合う事が多くなって…。
目を合わせて行くうちに、どきどきして。
そのうちに、お互いに目が離せなくなって。
いつのまにか、見つめ合うことが増えて----他の誰にも、そんなことなかったのに。

「なかなか興味深い馴れ初めだね。で…?切り出したのは、どちらなんだい?」
「え?あ…それはちょっと……その…」
そこから先は、照れてしまって言い出せないようだ。
予測する所では、おそらくこういう事には手慣れていそうな友雅の方が、何かしらのアクションを起こしたと思われる。
問題は、その時の友雅がどういう感情を持って、彼女の心に触れたかということ。
ここまで純粋に惹かれている彼女に対して、わずかでも気まぐれ程度のきっかけから始まったことだとしたら、それこそ文句の一つでも言ってやらなくては、と帝は強く思った。
まあ、それは後日友雅に聞いてみてからのことだ。
ついでに、どんな切り出し方をしたのか、も聞いてみなくては…というのは、好奇心旺盛すぎか?


「ホントにすいません…。友雅さんが受け止めてくれるから、私もつい調子に乗っちゃって、そのせいで主上にご心配かけてしまって」
「ん…それは構わないよ。好き合う者同士ならば当然のことばかりだからね。ただ、驚いたのは事実だが…神子の話を聞いて少し安心したよ。」
無頓着なままで、流れの中に結びついてしまった、早急な恋であるとしたら…と若干の不安もあったが、あかねの方は問題なさそうだ。
友雅もまた、これまでとは雰囲気も随分と違うし、危惧の念を抱くのも不要なのかもしれない。
お互いが必要以上の絆で心をつなぎ合う結果ならば、次第に相手との距離は狭まって行くだろう。日常的な時間の中で。

……そして、そこでまた一つ、帝にとって重大な気がかりがある。
「それで、だ…。神子と友雅が心を通わせていることについては、二人を引き離す気はないのだがね。それに関して、ちょっとだけ気になることがあってね…。それを尋ねたくて、こうして向き合っているのだけれども。」
こんな純真な彼女に、こういったことを尋ねるのは少々気が引けるのだが…。
少しためらいながらそんな風に思いつつ、帝はひとつ咳払いをする。
しかし、聞かない訳には行かない事だ。
今後の問題回避についても、出来るだけ克明に彼らの関係を知っておかなくてはいけない(と思う)。
決して好奇心で聞きたいわけではない。
理由があって、知る必要があるのだ(…多分)。

「率直に尋ねるがね…神子と友雅は、どれほどの付き合いをしているのかな、と思ってね…」
「ど、どれほど…って、どういう事ですか?」
尋ね返されると、更にはっきりと口にしなくてはならなくなる。かりにも女人の前であるし、あまり露骨な表現は避けたいのだが。
「つまり、あのな、実はその…いろいろと二人の噂をあちこちで聞いたのでな。もしかすると…と思ったのだが。」
あかねの方は、帝の言っている内容が鮮明には理解出来ないようで、どうも不思議な顔をしている。
かと言って、帝の方からすれば、どうやんわりと伝えられるか必死の状態だ。

「朝比名殿の山荘では、随分と仲睦まじい光景だったと聞くし、他でも似た様な噂も聞くので、もしかすると既に…共寝を交わしたりしているのではないか、と。」
……さらっと、さりげなく言ってしまった。
果たして、それに彼女が気付くかどうかだが。

すると、あかねの顔色が一気に赤く染まり始める。…分かってもらえたようだ。
「まあ…それに関してはな、深く好き合った男女であるのだから、そういうことになっても当然ではあると思うのだが…。」
問題は、無計画に事を済ませられると、これまた無計画に発生してしまうものがあるということなのだ。
普通の男女ならば遠慮など必要ないが、まだ神子と八葉である彼らに取っては、あきらかに時期尚早だ。
そこのところの関係を、何とか聞き出したいと思ったのだが……。

「そっ…そんなこと…してませんーっ!!」
今にも火を噴きそうな真っ赤な顔で、あかねの強い声が部屋に響いた。
おそらく、眼下に流れる池の魚たちも、その声に驚いて目を覚ましたのではないだろうか。
「わ、私たちそんな…そんな関係じゃないですっ!な、何もしてませんっ!!」
ムキになってあかねは、何度も繰り返し否定した。
全く身に覚えのない事だというのに!一体どうして、こんな噂が広まってしまったんだろう?
そりゃあ、二人きりで何度も出掛けたりしたけれど、神子と八葉であることは分からないように気をつけていたつもりだし。
出来るだけ人の少ない所で過ごしたし、そういう時は……まあ、彼から近付けられる唇は、素直にそのまま受け止めてしまうけれど。
でも、それ以上のことはないし!そんな記憶は全く無いし!

「本当に、共寝したことはないのか?」
「な、ないです!当たり前ですよ!どうしてそんな話になっちゃうんですかっ!?」
相手が帝であることなど、もうすっかりあかねには関係ないことだった。
完全にパニックに陥ってしまって、真実の解明に精一杯だ。
「いや…な、朝比名殿の所に二人が泊まった時に、彼の屋敷の侍女たちが見たことを大騒ぎしていたというのでな…」
「見、見たって…何をですかっ!?」
「その…せ、接吻していたとか、な…。それと…共寝をしていたという話も聞いたもので、つい…」

あの時は、熱があって頭も身体も重かった。
確かに一晩中、彼はそばにいてくれたのは間違いないが。
「それはっ…その、薬湯をですね、苦くて飲みにくかったから…く、口移しで…」
そこまで言いながら、どのみちキスには変わりがないじゃないか、と思ったら、自分で言った言葉に鼓動が反応して早まって来た。
抱きしめてキスなんて、もう数えきれないくらい繰り返した。
ささやかな恋人同士の秘密に過ぎないけれど…それでも毎回、どきどきしてたまらないのに。
この程度でも胸が熱くなるのに、それ以上のことなんて……考えただけでも頭の中の導火線が、一本ショートして使い物にならなくなりそうだ。

「では、共寝というのは、一体どういうことだったのだ?侍女たちは、大騒ぎだったと聞くぞ?」
「それは…ただ、友雅さんが腕枕してくれただけですっ!」
知らない他人の屋敷であるし、更に熱まで出して体調も優れないし。
そんな状態を放っておけないから、と朝まで一緒に部屋にいてくれて…。出来るだけ、ぐっすり眠れるように心が落ち着けるように、と腕を貸してくれただけ。
普段だったら、もうそんな状況で安眠なんて出来ないかもしれないけれど、あの時は具合も悪かったしぼんやりしていたから、そのまま彼に甘えてしまったのだ。
腕枕してもらいながら、ゆったり抱きしめてもらって熟睡してしまったけれど……まさか、それを他の人が見ているなんて。

でも…客観的に見てみれば、そういう関係なんだと思われても仕方ない光景かも、と思ったら自分の事なのに恥ずかしくなって来た。

「そういう関係までは、進んでいないのか…。友雅とあろう者が、珍しく慎重なものだな。二人で出掛ける事も多いと聞いていたから、てっきりそういう過ごし方をしているのかと思っていたよ。」
「おっ…主上っ!変な詮索しないでくださいっ!あるわけないですっ!」
と、あかねは豪語するが、相手が友雅であるならば、今後どうなる事やら。
「まあ、二人を止めるような野暮はせぬよ。但し、事は計画的に進めてくれるよう、神子からも友雅に言っておいてくれるか?」
「計画的って……そ、それは…」
ぽん、と頭の中に浮かぶ、あの言葉………つまりそれは俗に言われる"明るい家族計画を"ということ!?

「ないですっ!そんなの絶対にないです!あり得ませんっ!!」
「そうは言っても、向こうはどうかわからんよ?友雅がどれほど巧みに誘い入れることが出来るか、一番よく知っているのは神子ではないのかな?」
「……っ…ひぇええ!?」
頭から湯気が出そうなほどに、真っ赤になって目が回りそうなあかねを見ていると、どうして友雅が彼女に惹かれたかが何となく分かって来た。
彼女の醸し出している綺麗な空気は、瞳の輝きだけには留まっていない。
存在そのものが、汚れなくどこまでも透明なのだ。
心によって、表情はとめどなく変化する。その素直さは、駆け引きばかりを重視した女性たちにはないもの。
彼女だからこそ持っている、彼女にしかない魅力なのかもしれない。

「まあ、せいぜい仲良くすると良い。二人の事は出来る限り援助すると約束するよ。だが、羽目を外しては困るぞ?」
「な、な、ないですっ!それはっ、ぜ、ぜ、絶対っ!」
裏返った声で懸命に否定するあかねを、帝は微笑ましく見つめた。


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Megumi,Ka

suga