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Trouble in Paradise!!
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| 第9話 (2) |
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本人たちのみで事が済めば良いのだが、実は他にも状況説明をしなくてはならない者がいる。
もちろん、二人の真実についてはごまかす事になるのだが。
「というわけでね、今夜はこちらに泊まられるように、との主上からのお申し出なのだよ。」
友雅が説明にやってきたのは、車寄せで待機していた頼久である。
同じ八葉であるとは言え、自分たちの間柄に関しては一切漏らすわけにはいかない。相手が天の青龍であっても、だ。
「了解致しました。ですが、如何致しましょう。おそらく屋敷の方では、神子殿がお帰りになるかとお待ちしているのでは…」
確かに、単なる宴に招かれたということだけで、まさか泊まることになったとは思ってもいないだろう。
だからと言って、この時刻では文の連絡を出す訳にも行かない。どうすれば良いだろうか。
「ならば、私がこれから一度、屋敷の方へ戻らせて頂きます。」
永泉が置いて行ってくれた酒は、一滴とも手に付けてはいない。頭も目もしっかりとしている。
「馬を走らせれば、それほどの時間はかからないかと。明け方になりましたら、お迎えに再び参るということでは如何でしょうか?」
「そうだねえ…。その方法しか、ないかな。」
あかねの事もあるから、自分はここから立ち去るわけにもいかない。
何せ、いつ好奇心の固まりの輩どもが、あかねのところへ押し掛けてくるとも限らない。しかも、相手は老若男女と辺り構わずと言った所だ。
「万が一、神子殿に何かがありましても、友雅殿が付き添っておられるのであれば些細な事態も避けられる事でしょうから。」
頼久は迷わずそう答えて、その場を立ち去った。
「…随分と信用してくれたものだねえ…」
失礼だとは思いつつも、頼久の態度に笑いが込み上げて来た。 だいたいこの事態の火種が、彼がそこまで信用した友雅と、忠誠を誓ったあかねであることなど、彼は知る由もないだろう。
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出来るだけ他人の目が通らないように、との帝からの配慮もあって、あかねの寝所として与えられたのは、池に面した釣殿のある部屋だった。
簀子が足音を響かせるから、近付く人の気配は否応でも気付かされる。かえって、それこそが安全というものだ。
「それにしても…私は神子殿の身辺を注意しなくてはならないのだよ。それなのに、別々の部屋で一晩を過ごさなくてはいけないなんてね。」
用意された部屋に着き、張り出した先の水面に映る月を眺めながら、友雅が言う。
「あっ…あたりまえじゃないですかっ!一緒に寝るわけでもないのにっ!」
「私は構わないけど?」
「かっ、構う構わないっていう話じゃなくって!!」
もうホントに…どうしたら彼をあしらえるんだろう。どんなに言ったところで、言葉では敵いそうにない。簡単に転がされてしまうのが、ちょっと悔しい。
いつかさらっと、何でもないように交わしてみたいけれど…。
宴を終えて、すっかり静かになった嵯峨野の夜は、風に吹かれて涼しげな葉ずれの音が聞こえてくる。
眼下には、月明かりで輝く水面。時折、魚が泳いで波を作る。
「本当にねえ…どこかから何者かが忍び込んで、君に襲いかかったとしたら…どうすればいいんだろう。近くにいなければ、私だって何も出来ないのに。」
あかねの手を引いて、釣殿へ誘う。
両腕に彼女を抱きかかえ、頭上からは穏やかな夜空の輝きが降り注ぐ。
静かな夜だ。互いの心音や、呼吸音までも聞こえてくるくらいに。
……何のかんの言っても、こうして抱きしめられているのは好きだ。
好きな人を独占しているという、ちょっとした幸せ。彼が自分のために、ここにいてくれることを感じられるから。
ずっとこうしていられたら良いのに。
そういう意味じゃなくて、朝まで腕と胸を貸してくれたなら、心地良く眠れそうな気がする。
熱にうなされていた、あの時みたいに。
「神子に襲いかかる何者かとは、案外そなたのことではないのかな?友雅」
振り向くと、そこには帝が苦笑いをしながらこちらを見ていた。
慌てて友雅の腕から飛び降りたあかねは、即座にその場に三つ指をつく。手持ち無沙汰になった友雅もまた、ゆっくりと立ち上がって彼女の隣に腰を折った。
「すいませんっ!主上がいらっしゃるの、気付かなくて…!」
「構わんよ。こちらこそ二人の時間を邪魔してしまって、悪かったね。」
実は、しばらく前から部屋の外で様子を伺っていたのだ。二人だけにしたら、どのような様子なのか知りたくて。
特にあかねの方の行動が、帝としては気になるところだったのだが…からかうような友雅に対する受け答え方を見ても、彼女もやぶさかではないということか。
まあ、仲が良いに濾した事ではないのだが…やはりその辺は、限度をわきまえてもらわないと困る。
特に友雅の方に、だが。
「で、友雅の部屋についてだが、ここからひとつ渡殿を挟んだ母屋側にしたよ。あまり遠くの部屋を与えると、さっきのように愚痴られても困るしね。これくらいの距離なら許容範囲だろう?」
帝が彼の方を見る。
後々まで恨まれても何だし、逆に離れすぎるのもいささか気の毒ではあるし。悩んだ挙げ句の苦肉の策だ。
「それと、神子の身辺の世話については、普通なら数人ほど侍女を着けるのが良いのだが…こういう状況なのでね。」
「いえ、それは全然平気です。日常的なことだったら、普段から土御門家でも自分でやってますから。」
それが、彼女の世界では普通だったのだ、と友雅は言った。
「では…手間をかけるのは申し訳ないがね。寝着や角盥などは、部屋の前に用意だけさせるように伝えよう。あとは、神子に任せる。」
「あ、でも……この袿の着付はちょっと私じゃ…」
髪を梳いたり、顔を洗うことくらいは何でもないけれど、袿は一度脱いだら最後。着物なんて、元々着慣れているものじゃないし、振り袖や浴衣の着付だってろくに知らない。
それなのに、こんな十二単のような袿の着方など、覚えようと思っても無理だ。
時々、侍女たちが藤姫の着付を手伝うところを見たりするけれど、全く何一つ覚えていない。
「そうか。それじゃあ…その時だけは、誰かこちらによこすしかないな。出来るだけ少人数で手配をしよう。」
噂話好きの、侍女たちを使うのは…少し不安もあるが仕方ない。
「では、友雅…頼みに行ってくれるか?」
「私がですか?」
急に用事を与えられたので、さすがの友雅も少し驚いたようだ。
「そなたの目に叶った侍女ならば、それほど口も軽くはないだろう。それに、丁度良い機会であるから、そなたが戻って来るまでの間、少し神子と話をさせてくれないかね」
先程、確かそんなことを言っていたな…と友雅は思い出した。
どんな話をしたいのか、友雅には見当もつかないが、深刻な話でもないだろうし。
それに、帝があかねの側にいてくれれば、不用意に五月蝿い輩どもが近付く事も出来まい。逆に、安心だ。
「承知致しました。では、少々席を外させて頂きます。」
立ち上がって軽くあかねの肩に手をかけてから、一度振り返って微笑んだあと、友雅は部屋を出て行った。
妙に、夜の静けさが気になってくる。
月の明かりと、水の音---------何だか、緊張して来た。
目の前にいるのは、友雅ではなくて帝一人。それも二人きりだなんて。こうして二人で部屋にいるのだから、緊張は当然とも言える。
よく考えれば…普通だったら一対一で話す機会なんて、絶対にあり得ない相手だ。それは、生まれ育った世界でも、この世界でも同じはずなのだ。
「神子、あまり固くならなくて良いのだよ。緊張させる様な話をしに来たわけじゃないのだからね。」 彼女の緊張感が伝わってくるので、帝も言葉を掛けずにはいられなかった。
普通の、至って普通の少女だ。
見れば見る程に、まだ汚れない瞳の色が印象的な娘だ。
だが、そんな彼女に京の将来が掛かっているのだから、その荷は計り知れないものだろう。一人で抱え込むにはあまりに重すぎて、細い肩さえ崩れてしまいそうだ。
それに手を貸したのが、友雅なのだ。彼女にとっては他の誰よりも、その手は頼りがいのある存在だったのかもしれない。
「さっき、様子を見ていたけれど…噂になるだけのことはあるようだね。二人とも、随分と仲の良いようで結構だ。」
「あ、それは、そのー…はぁ…どうも…」
人目に見られていたのが恥ずかしいのか、夜の静寂にも浮き上がる頬の紅色が愛らしいと思う。
「でね、その二人のことで、ちょっといくつか聞いておきたいことがあったのだよ。不躾な内容かもしれないが、友雅も席を外しているところだし…内密にで良いから私に教えてくれないかな?」
やっと、この機会がやってきたようだ。面と向かって、彼女と気兼ねなく話せる。
少しだけ深いところまで掘り下げて、聞きたかったことを尋ねてみよう。
話題に照れる彼女の姿を見るのも、なかなか可愛くて見応えのあるものだ。
……なんて、まるでこれでは友雅みたいだな、と帝は思った。
「まずは、そうだな…。きっかけは何だったのかな?私が口裏を合わせたように、友雅が君を見初めたのかい?」
「えっ…そ、そんなわけないですよ!私なんかに、友雅さんが目を付ける訳がないじゃないですか!」
あかねは帝の言葉に、慌てて身振り手振りで否定する。
「しかし、少なくとも今はお互いに気持ちを通じ合っているのだろう?君もそのように見えるし、友雅を見ている限りでは相当なものだよ。」
一人の女性に彼がここまで執着することなど、今までなかったことなのだ、と彼女に告げると、袿の袖で恥ずかしそうに顔を隠した。
「詳しいことは…よく分かんないんですけども…でもっ、す、好きになったのは私の方が先ですからっ!」
「そうかね?では、あとでその辺は友雅からも聞いてみるとしよう。」
「えっ!それはちょっと…ダメです!恥ずかしいですから、聞かないでくださいっ!」
真っ赤になってじたばたしながら、慌てふためくあかねの姿と言ったら。
友雅が溺愛したくなる気持ちも、分からないでもない。
こうも素直に表情が感情と一体化しているのを見てしまうと、こっちまで楽しくなってくる。
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