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Trouble in Paradise!!
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| 第8話 (3) |
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「それにしても、父上…。予想していた以上ですねえ、少将殿のご執心ぶりは。」
二人の部屋を出たあとで、晃李が笑いを含みながら口を開いた。
女性へのあしらいには長けているとは思ったが、それとはあきらかに違った雰囲気だ。まるで、彼女一人しか目に映っていないような。
…まあ、だからこそ、こちらが照れるほどの姿を見せつけられたのだろうが。
「この様子では、噂よりもかなり早めに……」
「うむ。そうだなあ…以前、主上の御前にて話を伺った際にも、そのようなことが話題に上ったものだが。確かに、意外と早く事は進んでしまうかもしれぬなあ。」
友雅はどうあれ、相手の姫君はまだまだ若い。彼の甘い言葉に照れてしまうほどの、純情さだ。
そんな彼女と、彼女を深く想う彼。勢いならば、間違いなく友雅の方が上手のはず。勢いが付いたら、あっという間に……。
「どちらが先になるかのう」
「それは、どういう意味ですか?父上。」
月が見える渡殿の上。朝比名は立ち止まり、明るい夜空を見上げてみる。
「婚儀が先か、それとも………」
父と息子、揃って嵯峨野の夜の風を感じながら、これからの事を予測などしてみることにした。
優雅な宴を照らす灯火と、静かな緑の葉ずれ音。
友雅が奏でていた琵琶の音にも負けず劣らず、その軽やかな音は耳に優しい。
「あの友雅殿にやや子が生まれたら…どんな父親になるのかのう」
笑いながら、憶測だけの話を交わす。
しかし、壁に耳ありという諺は、この京の世界にも十分通じる言葉だ。
誰がどこで聞いているか、誰が耳をそばだてているか分からない。
そう、ここにもまた……。
「何と!既に友雅殿と姫君の間には……!」
背後から響いた大きな声に、驚いたのは朝比名たちの方だった。振り向くとそこに居たのは、現大納言の柏原だ。勿論、声の主は彼に間違いない。
だが、そこにいたのは彼一人ではなかった。式部省大輔の川辺の姿もある。生憎、二人とも噂好きで名高い男たちである。
「朝比名殿、その話はまことの事か?友雅殿の姫君は、既にご懐妊されているというのは…!」
目をぎらぎらさせた男たちが、二人揃って歩み寄る。
「い、いやそれはまだはっきりとは確認しておらんが…あの仲むつまじさならば、時間の問題なのではないかと話していただけでな…」
慌てて否定はしてみたが、果たして噂はどこまで誇張されるか…そこまでは予測が付かない。
もちろん、朝比名たちにもそれが完全否定出来ることなのかは、全く分からないことだが。
「それにしても、そこまで友雅殿は熱心でらっしゃるということか」
「ええ、それは確信致しました。かなりのご執心でいらっしゃいますよ。」
川辺の問いに答えたのは、晃李だった。
女性に限らず、男であっても噂話は気に掛かるもの。相手が相手なら尚更のこと。
「で、どのような姫君で?友雅殿がそこまで愛でられるとなれば、麗しい美貌の持ち主でいらっしゃるか?」
柏原と川辺が顔を寄せ合って、朝比名たちに探りを入れてくる。
まだ、誰一人として彼女の姿を目にしたことのない者ばかり。晃李もまた、ついさっきまでは彼らと同じ立場だった。
「いや、そういう感じではありませんでしたよ。意外にも、まだあどけなさの残る、若々しく爽やかな姫君でいらっしゃいました。」
正直に自分の印象を答えると、柏原達は顔を見合わせて、少し不思議な顔をした。どうやら彼らも晃李と同じ、想像していた女性像とは違っていたようだ。
「見目麗しいというより、雰囲気の美しい姫君でしょうか。瞳の輝きが綺麗な、それでいて恥じらいのある可愛らしい御方でいらっしゃる。」
華奢な物腰と、絹糸のような細く長い髪。
何より、嫌みのない表情は愛らしい。これまで会ったことのない、どこか凡人とは違った何かが感じられる。
「うーむ。それこそ、遠いとは言えど皇族の血を引く気高さから来るものかのう」
納得するように柏原達はうなづくが、正直なところ…そういうものとも違う。
血筋とかの意味ではなくて、明らかにそれは彼女自身の持つ、何かだ。
輝きを放つのは、彼女の命そのものという感じで。
「しかし…そんな話を聞けば聞くほど、是非私達も拝顔に伺いたいものですな!」
「ああ、それは勿論ひとめでも。出来れば直に、お二人の関係がどのようなものか明らかにさせて頂きたいですしな!」
気付くと、二人はすっかり乗り込みに行く気まんまんだ。
「では、我々もこれから伺いに行きますかな!」
「ん?いや…おい、そなた達、これから姫君の部屋へ行くというのか?」
朝比名は慌てて呼び止めようとしたが、意外に彼らの足取りは速い。彼が声を掛けた時には、狭い廊下を肩擦り寄せて立ち去っていく。
勿論、行く先は友雅たちの部屋だ。
「か、柏原殿!川辺殿!」
追いかけようとした朝比名の声に、気付いて近付いてきたのは中務少輔。
彼女の正体を、いち早く帝から聞き出した張本人だ。
「如何なさいましたか、朝比名殿。何をそんなに慌てていらっしゃるか?」
「いや…その、柏原殿と川辺殿が、橘少将殿の姫君にお会いしたいと、今し方お部屋に向かってしまいましてな……」
すると、中務少輔の表情が変わった。
「ほう。それはそれは…ならば私も便乗して、是非姫君にご挨拶をさせて頂きたいものですな」
すたすたと、彼の足は柏原たちと同じ方向へと迷わず進んでいく。
どうしてこうも、噂好きな男たちが揃っているのだろうか、今宵の宴は……。
「それだけ、噂にしがいのある方々だと言うことでしょう。ある意味、羨ましいことですねえ」
晃李は父の後ろで、暢気にそう言って笑った。
+++++
「失礼。こちらに、橘少将殿はおいでになられるかな」
何だ?今度は一体誰がやって来たというのだ。さっきの朝比名の声とは違う…あまり聞き覚えのない男の声だ。
再びあかねを几帳の向こうに置いて、友雅は戸の近くに歩み寄る。 「どちら様です?」
「ああ、私は大納言の柏原だ。そしてもう一人、式部省大輔の川辺殿もおいでになっておる。」
何故、この二人がわざわざ部屋までやって来るのか。友雅には全く理由が思い付かない。特に親しくしているわけでもないのに、どうしたというのか。
友雅は、ゆっくりと隙間程度に戸を滑らせて顔を出す。
「大納言殿と大輔殿が、一体私にどんなご用で?」
「ああ、いや…用というか何というか…な」
口にものが挟まったような、どうも歯切れの悪い言葉を彼らは繰り返す。
すると、廊下の向こうからもう一人、部屋に向かってやって来る姿があった。
「おお、良いところでお会いしましたな、橘少将殿!」
会ったというか、ただ部屋から顔を出しているだけなのだが…と友雅は思った。
その相手は、中務少輔である。
「一体、どうなさったのです?大納言殿、式部省大輔、そして中務少輔と…お三人がお揃いで、どのような用が?」
奇妙な面持ちで、友雅は彼らを見る。相変わらず柏原たちははっきりとしないが、逆に後からやってきた中務少輔はというと、意外にも単刀直入に用件を友雅に直談判した。
「いやあ、率直に言えばな…少将殿の愛しの姫君を、是非我々にもご紹介して頂けないかと思いましてなあ」
…全く、三人揃って噂話の種を探しに、ここまでやって来たということか。
他人の話にそこまで首を突っ込むなんて、よほどの物好きか、それとも悪趣味かのどちらかだ。
「何だ?随分と向こうの対は賑やかな雰囲気だな」
酒を嗜んでいた帝の耳に、西の対に通じる廊の賑わいが聞こえてきた。
ついさっき戻ってきたばかりの宰相中将が、帝の隣に腰を下ろす。
「丁度友雅殿の姫君の話で、皆盛り上がっておりますようです。先程朝比名殿がお二人にお会いしたとのことで、いろいろお話を尋ねられているご様子です。」
噂の広まりは、あっという間だな。
口を滑らせたのは、ほんの半時前の事であったというのに、この屋敷の中にいる者誰もが、その話を知らない人はいなさそうだ。これでは、京全体に広がることも時間の問題か。
よくよく、格好の噂の主人公に相応しい二人だ。この宰相中将も、少なからず彼等のことは気に掛けている様子。
「随分とお二人の深い仲が、話題の中心になっているようですね。実は先程も、大納言殿と式部省大輔殿が、我も我もと姫君にお会いしようとお部屋に押しかけておられるようで。」
「何?それは事実か?」
どうしてこうも、好奇心旺盛な者ばかりなのだろう(人のことは言えないが)。
これではせっかく、二人を隔離するために用意した部屋の意味がないではないか。
ふと、背後から足音がする。
振り返ると、足早に通り過ぎていく男の姿は…確か刑部省権大輔か?その後に続くのは…同じく大輔。行く先は…西の対の方向。
もしや彼等もまた……!?
「すまぬが、友雅に重要な所用を告げておくのを忘れていた。今一度、会いに行って来るよ。」
帝は立ち上がり、先程多くの者達が向かった先へと急いだ。
確認できただけでも、既に5人が押しかけていると推測できる。
いくら、あかねの素性を取り繕ったと言えど、こんなに大人数が集まられては戸惑うに決まっている。
「ああもう…本当に、手間の掛かる二人だな…」
実際は、彼等を取り巻く周囲の者たちが、落ち着きがないということなのだが。
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