Trouble in Paradise!!

 第7話 (1)
いつまでこうしていればいいのか…。
仮にも、一国の主である帝とあろう者が、一人で供も付けずに部屋の外で立ち往生しているとは、誰が想像出来るだろうか…この現状を。
ここで一言、声をかければ済む事であるのだが…どうも中の様子が気になって、行動に移せずにいる。
異様なほどに神経の尖った耳は、部屋の中から聞こえそうな物音を、わずかでも聞き漏らさないようにとしている。
だが、あれから数分が過ぎているにも関わらず、声らしきものは聞こえて来ない

…一体、二人はどんな状況なのだ…?
戸に背を押し当てて、帝は全意識を働かせて考えてみる。
好き合った男と女が一つの部屋でする事と言ったら……。
会話もいらずに、男と女がする事は………。
ぽんぽんと、帝の頭の中にあらゆる映像が浮かぶ。
あまりにその光景が、安易に映像として脳裏に表現出来てしまうことに、自分の想像力はかなりのものなのだと自覚してしまった。

いや、そんなことを自覚している場合か。
帝である自分が、長く姿を消しては周りが不信に思う。
だからといって御座に戻ったとしても、その間に誰かが友雅たちの部屋にやって来たとして、追求されたらどうしようもない。
今すぐにでも説明をしなくては、水の泡だ。
しかし………。

その時、廊下を足早に進む軋み音が、こちらに向かって近付いて来た。
まずい。どうやら自分を探し始まっているようだ。もう、どうにもならない。
早く、二人に状況を伝えて戻らねば。

……すまぬ、友雅!
心の葛藤に悩まされ続けた帝ではあったが、思い切ってついにその戸を開けた。


「…友雅!神子…すまぬが火急の用がある!」
勢い良く戸を開けたにも関わらず、帝は思わず目だけは瞑ったままだった。…一応、二人の様子に気を遣ったつもりではあったのだが。
事によっては、他人に見られたくない姿かも知れぬし…二人きりならともかくとして、いくら帝とはいえど憚られるだろう。
「主上…如何なさいましたか?尋常ではないご様子。一体何が…」
帝の心境とは裏腹に、返って来た友雅の口調は意外にも冷静だった。
おそるおそる顔を上げてみると…そこには神妙な表情の友雅と、彼の腕に抱かれたままのあかねがいた。
「す、すまないが…早急にそなた達に話をしなくてはならないことがある。心して、聞いてくれ。」
そう言って帝は、そそくさと几帳を避けて二人の前に進んだ。
あかねは友雅から少し離れて、乱れた裾や髪と供に姿勢を正す。
野暮な邪魔をして申し訳ない…と思いつつ、帝は口を開いた。

「先程の話の中で、神子の肩書きについて話したが…これより、神子は私共皇族の遠縁の者ということに決まった。」
「……え……ええええっ?!わ、私が皇族の縁者…になるんですかっ!?」
相手が帝であるにも関わらず、突然振って転がって来た自分の立場に、あかねは驚かずにはいられなかったようだ。
それは、隣に控えている友雅もまた、同じである。

「主上、事の状況をお聞かせ頂けませんか?そのよう早急な決断を迫られたということは、何かしら問題があったからでは?」
さすがに友雅は、こういう所は鋭い。事を説明する前に気付いたか…。
「私もあまり席を外してはいられぬ。そろそろ、探しに歩いている者もいるであろうし…簡潔に状況を説明するので、心して聞いてもらいたい。」
ようやく息を整え終えた帝は、これまでの話を二人に語り始めた。

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友雅たちの部屋を出て、御座に戻る最中の事だった。
「それにしても…やはり思っているよりも、二人の関係は深いものなのかね…」
独り言をつぶやきながら、今さっきまで見ていた友雅とあかねの事を思い出す。
年は十六と言ったか。
この世界では充分、二、三人の子を宿していてもおかしくはない年ではあるが…やはり世界が違うのだろう。まだ、そんな感じには程遠そうな感じだ。
かと言って、幼いとか未熟だという訳でもなくて、良い意味で若々しい感じだな、と帝は思った。

「友雅も…早まったことをしなければ良いがなあ…」
神子はどうあれ、相手が友雅では…。
その気になれば、簡単に事が進んでしまいそうな気がする。
例え彼女が戸惑ったにしても、上手く交わして想いを遂げてしまうことに関しては、さぞかし友雅は手慣れていそうだし…(誉めるものでもないが)。
「ふぅ…まだまだ色々と大変そうだな…」
溜息を付きながら、帝は御座へ戻った。
おそらく、そこを見られていたに違いない。


席に戻り、二杯目の酒を楽しんでいた帝の耳に、何やら騒がし気な声が聞こえて来た。
「あのお姿を目にしてしまうと、想い描いてしまいますの…。あの方が、少将様の胸に抱かれ、限りない寵愛を受けている御方かと…」
「ああ、口惜しいを通り越して、何と羨ましいことか…。」
おそらく声の主は、屋敷の侍女たちであろう。
ここまで筒抜けとは、随分気が緩んでいるようだが…まあ、それは宴の席と言う事でおおめに見よう。
だが、その話題の中身は気になる。もしや、先程聞いた…神子の部屋にやって来た侍女とは、彼女たちのことであろうか?
ついつい、耳を峙ててしまいそうになった、その時である。

「主上、御前を宜しいでございますか?」
宰相中将が、後ろからそっと声を掛けた。
「中務少輔殿が、お目通りを頂きたいと参られているのですが、如何いたしましょうか?」
帝は、妙だな、と思った。
中務少輔は博識と知られている有能な貴人であるが、これまで特に深い結びつきなどはなかったように思うが、今宵に限って、何か気になることでもあったのだろうか。
とは言え、断る理由もないため、帝は彼を招き入れることを承諾した。


「急なご拝顔のお許しを頂きまして、有り難うございます。」
「いや、そんな堅苦しい挨拶は良いよ。宴の宵なのだから、少しは無礼講にくつろぎたまえ。」
さすがにそれまでは緊張していた中務少輔も、帝の言葉にやっと肩の荷が少しほぐれたようだ。
互いに女房達から酒を注がれ、空気も和やかになりつつあった。
しかし、中務少輔が帝に会いに来た理由は、決してそんな和やかな内容ではなかったのである。
「実は主上…昨今、京を賑わせている、とある噂はすでにお耳に入られているでしょうか?」

……噂。その言葉を聞いて、帝はピンと直感が働いた。
京を賑わすような噂と言えば……思い付くのは、あの二人の事だろう。
友雅に関しては、自分と面識の深いことは周知の事実であるから、もしかしたら何か知っているのではないか、とさりげなく探りに来たつもりか。
「まあ、その…友雅のこと、かな?」
「やはりご存知でしたか。さすがに懐刀である少将殿の話題でございますから、当然の事でございましょう。」
中務少輔は深く納得してうなづいた。
が、そこで会話は終わらなかった。
「それでは、やはり…主上でしたらお相手の事も、ご存知でいらっしゃいますね」
来たか。友雅の噂がどれほど広まっているかは、何となく周囲を見ていれば分かるというものだが、その相手の素性は全く見えては来ない。
友雅の包囲網は結構頑丈らしく、あかねのことは誰一人として鮮明な噂は出て来なかった。
「そこまでは、ちょっとね。友雅も随分と今回はご執心の様子だから、なかなか打ち明けてはくれぬのだ。ひと目くらい、会わせてくれても良いのではないかなと思っているんだが……」
とか言って、ついさっき会ったばかりなのだが。

すると、中務少輔の表情がとたんに、にこやかになった。
にこやか…と言っても、その変化があまりにも唐突で、逆に帝としては首をかしげたくなる。
「いえいえ、主上でしたらご存知でしょう。先程、友雅殿の部屋からお戻りになられたばかりではございませぬか。」

…なに?もしかして、彼らの部屋から出たところを、彼は見ていたというのか?
周囲に気付かれないようにと、付き添いも連れずにこっそりと向かったつもりでいたのに。
「少将殿とは言えど、そこまで主上がお立ち寄り頂いたというのに、姫君をご紹介なさらないなど、そのような非礼はまさかしますまい。」
中務少輔の表情を見た限り、おそらく自分が友雅の相手であるあかねのことを、既に知っているのだと思っているに違いない。
確かに何もかも知ってはいるが…今はまだ明かせる状況ではないのだ。
このまま、ごまかし通してこの場を逃げるか…?

だが、帝は現在の自分の状態に、はっと気付いた。
一同の視線が……迷うことなく自分に注がれている。
中務少輔は勿論のこと、前後左右に構えている女房達、そして宰相中将、果ては通りがかりの刑部省大輔まで足を止めて、遠くからこちらを見ている。
誰一人として、息をしていないかのように口をつぐんでいるが、それは間違いなく、これから帝が口にするであろう友雅の相手である、彼女についての話に耳を峙てているのである。


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Megumi,Ka

suga