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Trouble in Paradise!!
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| 第6話 (3) |
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御簾からは、天を照らす月光がうっすらと差し込み、部屋の中ではかすかに灯る燭台の明かりが、夜の闇を追いやっているかのように辺りを照らしている。
八畳程度の決して広い部屋ではないが、二人で過ごすならばこれくらいで良いだろうと用意した。
恋し合う者同士が過ごすのなら、広さなど逆に距離を作ってまだるっこしいだろうと思った。
案の定…こちらを向かい合う二人の距離は無きに等しく、まるで肩を寄せ合うかのように着かず離れずだ。
「……ん…と、神子殿、宴は楽しんでおられるかな?」
切り出し方に少し戸惑った帝だったが、まずは何気ない世間話などから話題を滑らせて行こうと考えた。
「は、はい…。色々と主上には特別な計らいを頂いてしまって…ホントにありがとうございます!」
「はは…だから、そんなに固くならなくても良いんだよ。どのみち、この部屋には私達三人だけだ。何も隠すことなどないのだからね。」
そう言うと、帝は友雅の方に目配せをした。
「神子殿、主上には私達のことは全てご理解頂いているから、平気だよ。」
「え…えええっ!?」
友雅から聞かされていなかったのか、あかねは思わず驚きの声を上げた。
そして友雅と帝の顔を交互に見ながら、自分の置かれている状況に再び困惑しているようだ。
「二人のことは、友雅から全て聞かされているよ。時には、随分と熱っぽいことまでね。」
「ええっ!?と、友雅さん、主上に何を言ったんですかあっ!?」
どんなことを思い描いているのか分からないが、隣にいる友雅の腕を掴んで頬を赤らめている。何とも微笑ましいというか、愛らしいというか。
……こうして見ると、確かに妙な魅力を持った娘だな、と思う。
変に気取って飾り立てた雰囲気はないし、逆に素直そうなところが清々しく爽やかだ。表情も明るくて、瞳の輝きも美しい。人を惹き付ける何かが、確かに彼女にはありそうだ。
『で、惹き付けられたのが…友雅ということか』
帝はそんなことを考えながら、あかねの問い詰めを笑いながら交わそうとする友雅を見ていた。
『ぱっと見は、微笑ましい光景なのだがねえ…?』
戯れ合う姿はほのぼのとしているが、この二人がそのような深い関係に陥っているとは…。実際に目の前で見ていると不思議でならない。
だが、確かに二人は、そうなのだろう…と思う。
思いがけなく目の当たりにしたさっきの光景で分かるように、彼女は友雅に抱きつくことさえも迷いはないし、彼に抱きしめられることにも動じる事は無い。
つまり、そんな状態に慣れているということだ。
ということは、必然的に考えてみれば、彼女は友雅の腕に抱かれることに対して、全く抵抗を感じないということであるわけで、そうなれば友雅は遠慮も躊躇する必要もないわけであり………。
「主上、実は少々困ったお話があるのですが」
友雅はこの機会に、さっきあかねから聞かされたことを帝に相談することにした。
二人ではどうにもならないことも、帝の立場があればやり過ごせる方法が見つかるかもしれない。
せっかく力になってくれているのだから、こういう場合は遠慮なく話だけでも聞いてもらおう。そう思い、問いかけてみた……のだが。
「主上?」
どうしたことか、帝の心はここにあらずと言ったところか。
何かを黙考中のようだ。
「主上、何か気にかかる事でも?」
「ん?あ…?い、いや…すまない、ちょっとぼんやりしてしまった…」
慌てて我に返った帝は、手持ちの扇を開いてさりげなくそれを仰ぎ始めた。
少し、想像が過ぎてしまったらしい。顔が熱くなって来た。
改めて、友雅は姿勢を正して帝を見た。
「実は先程、私が管弦奏の為に部屋を留守にした時に………」
そう切り出して、友雅はあかねの身に起こったことを話し始めた。
「それは妙だな。私は、神子殿に水菓子を届けるようには、伝えてはいないはずだが?」
話を一通り聞き終えたあと、帝が言った言葉に二人は息を飲み来んだ。
「でも…、ホントにそう言って入って来たんです。だから私も、主上から届けられたものだから、と思って部屋に置いてもらおうと思って…」
その結果が、今回のハプニングとなったわけである。
「水菓子は用意してはあったが、演奏が終わってから友雅に届けてもらおうと思っていたのでね。二人の事情は知っているから、神子が一人でいる部屋に誰かを行かせることはしないよ。」
だが、それならば何故こんなことが起こったんだろうか。
そして、このスモモや桜桃の水菓子を送ってよこした相手は、誰なのか。
「案外…侍女たちの悪戯かもしれぬぞ?」
帝が言うと、あかねたちはお互いの顔を見合ったあと、再び前を向いた。
「悪戯って…どういうことですか?」
全くの無垢で真っすぐな目をして、あかねはこちらを見ている。
「そなた達の噂、随分と京を賑わせていることを自覚しておらぬだろう。あの橘少将が入れ込む姫君が、どこの御方であるかってね。どこもかしこも、話題はそれで持ち切りだ。」
宮中の女房たちでさえ、毎日その噂が中心である。
一体どこで知り合ったのか、相手はどこの家の姫君なのか、二人はどこまで進展しているのか……等々(最後の噂は帝自身も一番興味がある所だが)。
「幸い、その相手がまさか神子であるなんて、誰一人として予測はしていないだろうがね。それでも、友雅の見初めた相手というだけで、皆興味津々なのだよ。」
「そんな…私、別に何てことない普通の……」
と言いかけてから、あかねは続ける言葉を失った。
普通の…何だろう?普通の女子高生、なんて言ったところで、この世界で通用するはずがないし。
少なくともこの京では、自分の立場は龍神の神子。
「…普通じゃないですよねえ、神子だもの」
家柄がどうのこうのではなくて、龍神の加護を得た唯一の神子。
そんな重大な存在だからこそ、こうして公に恋することだって憚られているのだ。
「しかし、その悪戯をけしかけた者が誰であれ、これで友雅の相手がそなただと言う事は知られたか…。素性はともかく面は割れてしまったのだから、これから会う者は誰もがそなたを間違いなく、いろいろと詮索してくるだろうね」
「そんな…困ります。だって、何を聞かれても答えられるような事、ないです…」
たった一言で言うならば、"神子です"で済むことなのだが、そうも行かない。
だからと言って、友雅とのことを突き詰められても…素性を問い詰められたら答えようが無い。
「どうしたものかね。一応…隠れ蓑にでもなるような、辻褄の合う偽の肩書きでも企てておいた方が良いかもしれないね。」
「肩書き…。偽りの、そのようなものをお頼み頂ける方に、お心当たりがございますか?」
友雅が尋ねると、帝はうなづいた。
「まあ、そうだね。誰か信頼のある筋を当たってみよう。ほんの少しの間だ、何とか口裏を合わせてごまかしてくれるような輩も、何人かは居るだろうと思うよ。」
…やはり、帝には打ち明けておいていて正解だった、と友雅は思った。
どんなに有力な上流階級の貴族であれど、最高権力は帝には叶わない。
側近とも言える立場で御前に上がる機会が多いだけに、逐一で状況を伝えることが可能なのも心強い。
いずれはすべて、公に出来るようにと思ってはいるけれども、早急すぎると手順も整わずにミスが出そうだ。
堅苦しいが、今しばらくはじっと静かに、忍ぶ恋を楽しむことにしよう。
「何から何まで、主上にご迷惑ばかりかけてしまって、本当にすいません…」
「いや、構わんよ。いざという時には出来る限りの事は協力すると、友雅と約束をしているからね。こういう時こそ、力が試されるというものだよ。」
そうは言われても、やはり帝に擁護されるという肩身の狭さは免れない。
だが、皮肉のない穏やかな笑顔と、その隣に友雅が居ることで、あかねの気持ちは少しだけ落ち着いた。
「それにしても、私が演奏している間に、ここでそんな事が起こっていたなんてね。悠長に音を奏でる場合じゃなかったな」
薄く差し込む月明かりに背を向けて、ようやく二人きりになった部屋の中で友雅が盃を取る。隣でそっと、あかねは提子を傾ける。
「これでも今夜は、随分と気合いを入れて演奏していたつもりだったんだけれど、聞いている余裕もなかっただろうね」
「あ、そんなことないですよ。最後の方はそれどころじゃなかったけど…最初はずっと聞いていました。」
御簾の隙間から、月に照らされる彼の姿を眺めながら、響く琵琶の音に酔いしれていた。胸の奥に染みるような音。夜の帳の中で輝いて映る、彼の姿。
それはとても幻想的で、夢を見ているような一時。
絵巻物のような一瞬を思い出しているあかねの肩に、友雅の手が伸びる。
「なら、良かった。主上に言われていたんだよ。"月の姫までも恋してしまうような音を"とね。そう思いながらつま弾いていたのだけれど……」
盃で少し舌と唇を濡らして、空になったそれを高坏に戻すと、ゆっくり顔を近づけてくる。
そして、深みを帯びた瞳の色に、あかねの姿を映し込む。
「どう?恋してくれたかい…?」
あかねは、答えられなかった。口を開こうとはしたけれど、彼にせき止められてしまったからだ。
でも、その唇を受け止めていることが、何よりも素直な答え。
今宵よりもずっと前から……恋はとっくに始まっている。
夜が更ける屋敷の中を、足早に進む音と姿があった。
その公達の正体が、まさか帝であるなどと誰も思いはしないだろうが……正真正銘、帝は急ぎ足で再びあの部屋に戻ろうとしていた。
急展開だ。いくら突然の事だったとは言え、問題の中心にある主人公たちに状況を説明せねば、これからの策略も進まない。
やっと部屋まで辿り着いた時には、少し息が弾んでいた。距離はそれほどではないのだが、おそらく気持ちの問題だろう。
帝は戸に手を掛けた。
……が、部屋の中から聞こえてきた話し声に、一瞬でその場に硬直したまま立ちつくした。
「ダメですよ、まだ私たちの世界じゃ、お酒は飲んじゃいけない年なんですから」
「それなら、飲まなくても良いから、味と香りだけを楽しませてあげるよ」
「……え、あ…………」
それきり途切れた声。その代わりに聞こえる衣擦れの音。
"とっ…友雅め…こっ、こんな時に〜〜〜っ!!!"
その場から離れるわけにも行かず、だからと言ってここにいると、神経は部屋の中から聞こえる音に集中してしまう。
早く事の説明をしなければ、と気は焦るのに現状の展開も気になるし…。
一国の主が、部屋の外で自分たちの様子に混乱していることなど、恋した二人が知る由もない。
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