Romanticにはほどとおい

 第24話 (2)
あかねの希望通り、天真たちの眠る部屋に寝床が用意された。
彼らの周りには御簾が置かれ、女房が朝まで彼らの枕元に着いていてくれる。
人間ならば睡眠が必要だが、式神の彼女にはさほど眠りは重要ではない。徹夜など痛くも痒くもない。
「神子様は、ゆっくりとお休み下さいませ。あとは、私にどうぞおまかせを」
「はい…。よろしくお願いします」
小さな灯籠の明かりが、室内をぼんやりと照らす。
静かな静かな、夜。
寝息さえも耳に届くほどの、静寂の夜。

御簾の外にある床へ移動する前に、あかねは二人のそばに腰を下ろした。
そして、おもむろに彼らの手を取ると、床の間でそっと重ねあわせた。
「どうかなさいましたか」
「…ううん、何でもないんですけど。でも、何となくこうしたら…良いかなって」
お互いの手と手を重ねて。手を繋ぐようにぬくもりを重ねて。
生まれたときから一番近くに存在した絆の暖かさが、手のひらから少しでも伝わり合えば、奇跡が起きるのではないかと期待と祈りを込めて。
「おまじないみたいなものです」
「そうですか。神子様のお心が、お二人に通じますよう…」
些細な小さいことでも、今はすがりたいと思う。
早く二人が目覚めて、本当の自分に気付くその時が来るようにと。


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そんなあかねの願いは届かず、次の日の朝が来ても彼らは目を覚まさなかった。
空は青く清々しいのに、声を掛けても返事が戻らない二人を前にして、あかねの心はどんよりと重い。
「そう心配せんでも良い。彼らの状態は安定しておるよ」
朝一番に、晴明が二人の様子を見に来てくれた。
体温や心拍数に異常は見られず、健康状態のまま体調は保たれているという。
「ほれ、神子もそろそろ朝餉にすると良い。しっかり食は摂らねばな」
「あ、はい。そうですね」
「では、支度をさせよう。土御門のような朝餉は期待せぬようにな」
晴明は穏やかに笑いながら、式神の彼女を連れて部屋を出た。

一人になるとぼーっとしてしまって、つい視線が二人の方にしか行かなくなる。
彼らの姿を見つめ続けても、変化があるわけでもないのに。
いや、もうこの際だから強く念じてみようか。
早く起きて、起きて、起きて、起きて…………とか?
天真くん起きてってばー…蘭も、早く起きてよー…
もうとっくに朝なんだから、起きて一緒に朝ご飯食べようよ……とか、反応してくれないかなあ…。

「……ん?」
ふわりと、近くで薫る深みのある香り。
晴明の屋敷で焚いている香とは違うけれど、それはあかねにとって慣れ親しんだ優雅な香りだ。
「やれやれ。ようやく気付いてもらえたか…朝餉が冷めてしまうところだったよ」
振り向くと、彼がそこにいた。
片手には、まだ湯気の残る碗を乗せた盆を携えている。
「毎日様子を伺いにくると、夕べ約束しただろう?」
別に仕事をさぼったわけじゃないから、と付け加えて、彼は隣に腰を下ろした。

青菜を煮込んだ柔らかな粥と、干し蚫と野菜の羹に醤を少々。
期待はするなと言ったにも関わらず、添えられているものの中に蚫などがあるところを見ると、客人として気を使ってくれているのが分かる。
あかねが朝餉を味わっているそばで、友雅は天真たちの方に視線を移した。
「まだ何も、変化はないようだね」
「…はい。夕べずっとここにいたんですけど、変わったことはなかったって…」
と、そこまで言ったところで、はっとあかねは我に返った。
「あ、あのっ、私が夕べここで寝てたのは間違いないですけどっ、でも私ひとりだったわけじゃなくって…」
昨夜晴明と泰明に、さんざん言われたことを思い出した。
友人知人であれ、男と同じ部屋であかねを寝かせたと友雅に知られたら、どんな嫌みを言われるか分からないと。
そんな友雅を宥めるのはあかねの責任だと、泰明が口を酸っぱくして言っていた。

「私が寝てる間は、式神さんがずっと見ててくれて…あ、その式神さんはもちろん女性でっ…」
とにかく、この部屋に女性がいて、朝まで見張っていてくれたと友雅に納得させなくては。
しかし、必死になってあれこれ説明するあかねを、友雅の方は笑みを浮かべ耳を傾けている。
「あの…友雅さん、疑って…ません?」
「疑っていないよ。出迎えてくれた女房が、ちゃんと話してくれたからね」
鴨頭草色の衣を着ていたと言うので、すぐに彼女だと分かった。
あかねと顔を合わせる前に、昨夜のことを彼に伝えてくれたのだ。
「それにしても、皆がそんな風に思っていたとはねえ」
彼は周囲から反応を、どこか面白そうに捕らえている。
自分では無意識だったことが、第三者の目を通すとこんな意外な形になるとは。

「あかねは、どう思う?私はそんなに嫉妬深い男かな?」
「え、えっ…と…」
顔をゆっくり近付けてきて、鼻先が触れあうくらいの距離まで。
互いの目に、互いの姿が映るのを確認出来るほど近付いて、そう尋ねる。
「独占欲が強過ぎるのかな。そういう男は…嫌いかい?」
そんな、朝から艶やかな目で見つめられて、甘い囁きで問い掛けられても困惑するばかりだ。
だってそれらはすべて、自分に関わることだと言われたら…。
「こればかりは、譲れないものだからね。妥協出来るわけがない」
顎をなぞる指先の仕草が、妙に艶かしくてドキドキする。
柔らかい粥さえも飲み込めない。喉に詰まってしまいそう。

「おまえたちの盛りは、季節を問わんのか」
友雅の影に視界を遮られて、部屋に泰明が来ていたことに気付かなかった。
相変わらず起伏のない面持ち。
でも、どことなく呆れているように思えなくも…ない。
「や、泰明さんおはようございますっ。あ、あの…それ、何ですかっ?」
話題の矛先を変えようと、泰明が手に持っていた壺と布に注目した。
「気付け薬、とお師匠は言っていた。詳しくはわからん」
そう言って泰明は、眠る二人の枕元に座ると、布の上に壺を傾けて液体をじっとりと湿らせた。
無色透明…いや、少し緑かかった色をしているか。匂いは、特別感じられない。
泰明はその布を細長く畳み、天真と蘭の目を覆うように置いた。
「どういう効果があるんだい?」
「目覚ましになる作用でもあるのではないか。」
晴明が使えというのだから、それに従うしか手段はない。
他の誰にも、これ以上のことをすることは出来ないのだから。

「さて、これから私は出仕しなくてはならないから、失礼するよ。また、夜にでも顔を出すからね」
「…また来るのか」
わざわざ日に二回も来る必要ないだろうに、と言いたげな目をしながら泰明が友雅を見る。
そんな泰明に目もくれず、友雅の視線はあかねにしか向けられていない。
「一日の終わりに姫君の顔を見なくては、悪夢にうなされてしまうからね」
大きな手のひらであかねの髪を撫で、彼はその場を後にする。
その後、あかねと泰明との間に微妙な空気が流れたことは、言うまでもないこと。



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Megumi,Ka

suga