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Romanticにはほどとおい
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| 第5話 (3) |
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「おや、もうお帰りかい?」
二階から降りて来ると、宿の女主人は友雅たちを見て、親しげに声を掛けてきた。
「こう見えても、お互いに何かと忙しい身でね。ひとときでも二人で過ごしたいと思って来たんだけれど、おかげでゆっくり出来たよ。」
「ほうほう。こりゃ羨ましいほど仲が宜しいねえ。」
友雅の後ろに隠れるようにして、あかねが恥ずかしそうにぺこりと頭を下げる。
すると彼女は、人懐っこい微笑みを返した。
「そういや、店の外にあんた方の知り合いが待ってるよ。」
勝手口で勘定を計算しながら、女主人が入口の方を指差しながら言った。
知り合いが待っている?
誰かに、ここに来ることなんて言っていたか?
…いや、それはない。元々今日は、蘭を探すために出かけてきた。
それにこの店に限っては、ひと休みをするためにどこか場所を探し歩いて、たまたまもう一度辿り着いたのだ。
「知り合いって、どういう風貌の輩だい?」
「そうだねえ。髪がこざっぱりして短くて、背の高い若い男だよ」
一応彼女に相手の様子を伺ってみたが、残念ながらその程度の形容詞では、思い当たる者は京に五万といる。
「あと、腕に文様みたいなのを付けてたね。それと、首飾りを掛けていたよ。」
彼女の言葉を聞いて、あかねと友雅が顔を合わせた時。
「てめえらー…やっぱここにしけこんでたのかっ!!」
片手に団子と湯呑みを手に、仁王立ちで睨んでいる男が、そこにいた。
ちょんちょん、と肩を叩く手の感触に振り返ると、女主人がにっこりと笑って手のひらを差し出す。
「あちらのお客の団子と飲み物、あんた持ちだって言うんでね。」
よくもまあ…勝手に人のツケにしてくれたものだ。
聞いてみれば団子を三皿に、麦湯を二杯も平らげている。
「おまえらのおかげで、藤姫ってば知恵熱出してぶっ倒れちまって。そんでも探しに行けって言われたから来たんだぜ。」
腹の足しくらい奢られて当然、と言わんばかりに、天真は残りの団子を平らげた。
「藤姫、倒れちゃったの?大丈夫なの?」
「ま、いつものことよ、それは。別に心配するほどじゃねーよ」
あかねたちのことで、ここ最近よく彼女は熱を出して倒れる。
大概、友雅があかねに過剰なモーションを掛けたり、刺激のある台詞を吐いたりするのが原因で、頭の中がショートした、という表現が合うだろう。
「だけど、今日は藤姫殿にも、行く先をきちんと伝えたよ?」
その時は別に、何の反応もなかったけれど。
と、天真が友雅をぴしっと指差した。
「その行き先が問題だってんだよっ!」
「さて?確か今日は"ラブホテルでゆっくり過ごしてくる"と、言っておいたはずなんだけどねえ?」
「そそそそ、それが原因だっての!」
出掛けに顔を合わせた天真も、友雅に言われてパニックに陥った。
しかし、屋敷に戻ってみると藤姫が、彼に神妙な顔をして尋ねて来た。
"ラブホテルとは、一体どういうものなのでしょう?"
あかねたちの世界で使われているという、新しい言葉には常に興味津々の藤姫。
今回も意味をきちんと理解しようと、取り敢えず近くにいた詩紋に尋ねたらしいのだが…まあ、控えめな詩紋にとっては、そんなこと気恥ずかしくて説明出来るわけがない。
その点、天真はまったく正反対で。
言い難いことであっても、最初はもごもごしつつ、結局はストレートに口にしてしまうのが殆ど。
というわけで、今回もそのような結果になったのだった。
「…何て説明したの…」
「男と女がぁ、本能に流されてぇ、衣とか脱いで一緒に床に入って、めーいっぱいイチャイチャする宿。」
何なんだ、その説明は。
誤魔化しているのか、ストレートなのか微妙だが、あまりに分かり易すぎる。
「そう言ったらさー、藤姫の顔色があっと言う間に煮詰まっちゃってさあ。そのまま湯気出して、ぱたっと。」
いつもの展開になった、というわけだ。
「でも、良くここが分かったねえ」
勘定を済ませて外に出たあと、友雅は感心しながら天真を見た。
こんな宿なんて、京には山ほどあるというのに。
「まあ、あてずっぽよ。こないだここにしけこんでやがったから、まずは知ってるところから攻めようと思っただけだ」
そしてやって来てみたら、二人は上の部屋で休憩中だと言われて。
休憩中ということは、つまりこういう場所での"ご休憩タイム"のことか?と天真は解釈した。
まさか京にラブホテルがあるなんて…と思ったが、システムも意外と似たり寄ったりなんだろうか?
「しかしなー…この宿が…そうなのか」
天真は宿の姿を、しげしげと眺める。
一見は普通の、誰でも立ち寄りやすそうな、人情味のある宿と店構え。
「京のラブホって…向こうより一般向きな感じなのな」
「ちょっと天真くん、何考えてんの!」
随分と真剣にキョロキョロしているかと思ったら…この店がラブホテルだと思っているのか。
「俺らの世界でも、最近はえらいゴージャスなシティホテル並みなとこもあるけどさあ。でも、一応それらしい所にあるもんじゃん。けど、ここは普通の店っぽいもんなあー」
どこで仕入れた知識か分からないが、そこはそれなりにお年頃の青少年。
この手の情報に関しては、結構な耳年増でもある。
「なあ、他に客とかいたのか?繁盛してんの?この宿」
「も、もういい加減にしてよっ…。どうでも良いじゃないっ…!」
顔を赤くして逃げるあかねを尻目に、友雅は静かに微笑みを浮かべてそこにいる。
「何だい天真?私に聞きたいことでも、あるのかな?」
「別に、そのー……何でもねえよっ」
聞きたいことは、やまほどある。
ここ、京のラブホテルっていうものが、どんなものなのか…とか。
やっぱりその…ここに来たということは、あかねとはそーいうことをしてたってことなのか…とか。
聞けるわけがないが、聞きたい。
とっても聞いてみたい。ものすごく聞いてみたい。
それが、健全なオトコというものだ!と、勝手に思い込んでいる天真である。
「天真にも素敵な女性が出来たら、いろいろと教えてあげるよ」
歩き出した天真を、そんな友雅の声が呼び止めた。
彼は振り返って、苦々しい顔でこちらを見る。
「俺は、今はそんな暇ねーのっ!取り敢えず、見つけるもんを見つけなきゃ、落ちつかねーし。」
そう言って、先を急ぐあかねの後を追い掛けていく。
彼が見つけたいもの。言わなくても分かる。
それが何なのか。それが、誰のことなのか。
そしてその"見つけたいもの"は、意外に近い場所に存在していて…有る意味まだちょっとだけ遠いところにいる。
このままじゃ、さすがに気の毒だよねえ…。
気がかりなことを残して毎日を過ごすのは、天真の性格には似合わない。
まずは明日、泰明に声をかけて助言を貰ってから、また考えてみるのが良い。
一歩一歩、歩みは少なくとも確実に進んで、ゴールを目指そう。
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