Kiss in the Moonlight

 Story=17-----01
友雅の手はあかねの背中に。
あかねの手は、友雅の背中に。
暗闇の中で抱きあいながら、唇はお互いを求めるように重なり続ける。
やがて、あかねは友雅の腕に抱かれて、身体を少し倒した。
「…あ…」
呼吸をするため一旦離れたとしても、すぐに元に戻る。
毛布一枚を剥ぎ、その中で身を寄せあい、閉じた瞼の裏に彼女の姿を映す。

いつもこんな風に口づけを交わすたび、思うことがある。
彼女は-------君は、どんなことを思っているのだろうかと。
信頼感を確かめるための儀式…そんな風にしか感じていないのだろうか。
まるで、家族同士の親愛の情を表現するキスと、同じようなものとして。
そんなキスなら、一度で終わる。
でも、なかなか手放せない理由は……。

歯がゆいというのは、こんな気持ちを言うのだろう。
本当に欲しいのは唇じゃなくて、彼女自身の心。
それを尋ねることも、気持ちを伝えることさえも出来ない、限界ギリギリの手前。
ストレスがたまる。
けど……彼女の側から離れるわけにはいかない。

ぎゅうっとしがみつく君の腕の意味は、どんなものだろう。
私を信頼してくれている、安心感から生まれる力か。
それともその中に、わずかでも男と女の感情は……あるのだろうか。

心の奥底を、知りたい。
彼女の瞳には、自分がどう映っているのか…探りたい。
それさえ分かれば、こんなに胸を締め付けられたりしないだろう。
このままずっと、こうしていられたら良い。
普通の恋人同士のように、心から求め合ってのキスならば良いのに。



---------------ガラガラ、ガラガラ、ガラガラ。
遠くで何かが崩れる音が聞こえると、友雅の胸のあたりで、小さな熱が光と共に込み上げてきた。
『友雅、じきに入口が開くぞ。』
泰明の声がペンダントを通じて聞こえ、二人は身体をようやく離した。
ピシピシ、グシャン。
小さな震動が響き、少しずつ外部の光が穴の中に漏れて来る。
一筋の光が次第に広くなり、燃えさかる松明の炎が中を照らした。
「おーい、大丈夫かー?もう出て来られるぞー」
天真の叫び声が反響して聞こえてきた。

「早めに事が済んで良かったね。さ、あかね殿、行こうか」
「は…はいっ」
友雅は池で拾った奇妙な岩を布にくるみ、片方の手をあかねに差し伸べた。
手を握り、彼女の身体を引き起こして、入口へと歩き始めた。
何一つ変わったことはなかった…と、平然といつもの調子で手を取って、歩く。
その穏やかさが逆に、彼には少し息苦しかった。


+++++


くるんでいた布を開き、中から岩を取り出した。
表面は至って普通の岩だが、側面を見ると何かで彫った文字が書かれている。
洞窟の中ではよく見えなかったが、炎の近くに照らすとしっかりと文字が読める。
「ええと、これは…"我祈る望み叶えよ、清き魂捧げし、天地万能の神と違わぬ力、この手に宿り給え"……かな?」
「そうだ。今は殆ど使われていないが、西国の古典言語で書かれているようだ。」
泰明は友雅が読み上げた文字を、そう判断した。

「しかし、こんなに古い言葉を使って書かれている割には、比較的新しく彫られたようだよ?」
この言語が通用していたのは、今から数百年遡る時代だ。
何かの遺跡であるならば、もっと傷みが激しくてもおかしくない。
なのに、こうしてはっきりと文字が読めるとなると、古いものではないはず。
「この言語でなくてはならない、理由があるのでしょうか?」
「はっきりは言えぬが、あるとしたら…特別な呪術を使うことだろうな。」
西国は、古くから優れた呪術師を輩出した国だ。
そのせいで、独特の呪術や呪文が現代にも伝えられ、国内外にも貴重な資料として広まっている。

「でも、そこに書かれている呪術の内容って、間違いなく…洞窟の中の女の人たちのことですよね…?」
友雅の隣にいたあかねが、呪文を眺めてつぶやいた。
"清き魂”とは、おそらくこれまでユニコーンに連れ去られた、女性たちのことを言っている。
ということは、その清き魂を捧げるということは…。
「待てよ!それじゃやっぱ…最初から女たちを生贄に、するつもりだったんじゃねえかよ!」
イノリが身を乗り出して、眉を吊り上げながら拳を握った。
皆は神妙な顔付きで、泰明に手渡された呪文入りの岩を見つめている。
「自分の望みを叶えるために、あんなにたくさんの女たちを生贄に捧げてるって…そう言ってんだろっ!?」
「酷いことを…。自分の得のために、他人の犠牲を差し出すなどとは…」
長い睫毛を伏せ、哀しそうに永泉はうつむく。

「後半の"天地万能の神…"云々というのは、前半の内容を照らし合わせてみると、生贄のおかげで力が得られる…と言っているのかな?」
「だろう。だが、呪術を掛けた者が求める力は、そう簡単な力ではなさそうだ。」
天地万能の神と称すれば、それは神々の最高峰。
その神と違わぬ力ということは、この呪術を掛けた者は桁外れの力を欲している。
強大な力を得て、何をするつもりなのだろう。
そして何より、この呪術を掛けた張本人・犯人は-----------------------------

「やはり怪しいのは、彼女だと思うよ。」
真っ先に答えたのは友雅だったが、既に誰もが同じように感じていた。
女性たちを選び、ユニコーンの元へ差し出したのは彼女。
そもそもこんな儀式が始まったのだって、彼女が言い出したことからだ。
「でも、町の奴らにはあの女の息が掛かってるんだろ。下手に手を出したら、周りから圧力掛けられるかもだぜ?」
集団心理というものは、ヒステリックになりがち。
例え正気であっても、多数決で意識が引きずられることも有り得る。

「ともかく、朝まで休息を取っておけ。陽が昇ったら町に戻って、策を練り直した方が良い。」
空には明るい月が浮かぶ。
パチパチ…と、燃える赤い焚火。
捕らえられたユニコーンは、目と角を覆われているせいか大人しい。

朝日が昇るまで、あと数時間。
皆はマントと毛布を二重に羽織り、火を取り囲むようにして横になった。



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Megumi,Ka

suga