Kiss in the Moonlight

 Story=04-----02
暗い暗い闇の中。
あれ、私…まだ寝ていなかったんだっけ?
辺りを見渡してみるが、誰もいない。
確か今夜は、友雅さんと一緒に寝ていたはず。
なのに、誰も周りにいないのは…何故?

もしかして、これは夢の中?
でも、やけに鮮明な意識が不思議な気がする。
まるで現実の世界みたい。
一体これは、どういうことなんだろう………。

真っ暗で何も見えず、あかねはその場に立っているしか出来ない。
どこかに行こうとしても、目印も明かりもない。
暗闇だけの世界。

「誰か…いないんですか?ねえ、誰か…」
四方八方、無音と暗闇ばかり。
どんどん気持ちが不安になって来て、いてもたってもいられなくなった。
「誰か……友雅さん!?そばに…いないんですか?」
彼なら他の誰よりも、自分のそばにいてくれるはずなのに。
「返事して下さい!友雅さんっ!!」
叫んでも叫んでも、響くのは自分の声だけだ。

やだ、友雅さん…そばに…いて…怖い……。


----------助けて。


ビクン!と全身に響き渡った声。
すべての神経と血液にまで、伝わった今の声は…自分のものじゃない。
"助けて"?誰の声?
今のは誰?誰が助けを求めているの?


「あかね殿!」
身体を強く揺さぶられて、ぱっとあかねは目が覚めた。
真っ先にその瞳に映ったのは、自分の名を呼んでくれた人。
「随分うなされていたよ…。どうした?嫌な夢でも見たのかい?」
見下ろしている彼の長い髪が、頬をくすぐるように触れて。
大きな手のひらが、優しく額を撫でている。
夢じゃない。この手の感触、間違いなく…彼のものだ。

「友雅さんっ…!」
「…っと。どうしたんだい…急に」
起き上がったとたん、あかねは彼にしがみついてきた。
ぎゅうっと背中に手を伸ばして、少しだけ肩を震わせて。
「そばにいて…。どこにも行かないでっ…」
「思わずときめいてしまいそうな台詞だけど、そんな状態で言われても心配なだけだよ?」
こうして抱いてあげても、怯えるように小さくなったあかねを見て、のほほんとしてなどいられない。
「やっぱり、ずっとこれから抱きしめて眠ってあげようか?」
冗談めいた言葉で、少し気を紛らわせようと企んでみる。
けれど彼女は黙ったまま、更に友雅にしがみついてくるだけだ。

「…好きなだけ、しがみついてて、いいよ。」
何があったのか分からないし、どんな悪夢を見ていたのかも分からない。
それでも、こうしていることが彼女を落ち着かせるのなら、好きなようにさせてやろう。


----------助けて。


聞き覚えの無い声に、友雅は顔を上げた。
今の声は、何だ?耳が捕らえるのとは違う、身体に響くような声。
どこから聞こえた声だ…そして、一体その声の主は…。

「と、友雅さんっ!!」
はっとして、あかねが指差した方向を見た。
薄暗い部屋に浮かんだ、ぼんやりした光の玉が目の前に近付いて来る。
よく見るとそれは人の形をしていたが…更に目を凝らしてみると、羽ばたく薄い羽根が見えた。

-----助けて下さい。私をここから解放して、村の人々を救って下さい…。
「もしかして、君はあの村の妖精の…」
-----そうです。湖の岩に封印されて、今はこうして影を飛ばすしか出来ません。
人の形はしっかり見えるが、鮮明には分からない。
ただ、その羽根があることで、やっと妖精らしい姿が確認出来るという程度。

「夢の中で呼んでいたのは、あなただったんですか?」
-----暗い岩の奥深くに、独り閉じ込められていました。
真っ暗な世界に取り残された不安と寂しさ。
あの気持ちは、彼女の感情を投影していたのか。
-----辛い思いをさせてごめんなさい。でも、上級巫女の資質を持つ貴女だったら、私の気持ちを分かってくれるはずだと思ったのです。
「私が巫女候補なのを、知ってるんですか?」
-----あなたから感じる聖なる光は、隠しようもない特別なものですから。
そういうものなのか。
自分では全く普通の人間と大差ないと思っていたが…分かる者には分かるのか。

-----お願いします。あなた方なら…きっとあの獣を退治することが出来るはず。
封印されたままでは、村を護ることは出来ない。
頼めるのは、この姿を見ることが出来る、選ばれた人だけ。
「彼女が上級巫女候補なのを知っているなら、私たちがどうして旅をしているか、分かっているよね?」
友雅が言うと、妖精はゆっくりとうなづいた。
「無事に龍晄山への旅を終えるまでは、どんなことがあっても彼女を護る事が第一だ。その為に私たちは一緒に旅をしている。例え一人でも、もしものことがあっては困るんだ。」
この腕の中にいる、あかねだけがすべて。
それ以外を払い除けてでも、護らなくてはいけないのは彼女一人。

「本当に、私たちの力に確信があるのなら、引き受けても良いよ。」
「友雅さん…」
顔を上げたあかねの肩を、しっかりと友雅は抱く。
「彼女も、助けてあげたいと思っているからね。それなら私も力を貸すよ。」
ただし、どうやっても危険だと感じたときは、無責任かもしれないが退散する。
あかねの身を護るためには、それだけは譲れない。

-----分かりました。お願い致します。
妖精はふわりと高く浮き上がると、あかねの手のひらの上に下りようとした。
-----わずかながらの私の加護を、貴女へ。
優しい光の粒がはらはらと舞い降りて、あかねを包み込んだ。

次の瞬間。

「あかね殿っ…!!」
即座に手を伸ばしたが、間に合わず。
光を纏ったあかねの姿は、妖精とともに友雅の目の前から一瞬のうちに消えた。



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Megumi,Ka

suga