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Kiss in the Moonlight
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| Story=27-----03 |
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とっぷりと夜が更けたころ、友雅は一人で部屋を後にした。
現上級巫女の個人礼拝堂には、未だに龍と二人の気配が残っていた。
「分かったでしょう。友雅は…本気ですよ?」
「私の目からも、友雅様のお気持ちは、真摯なものであると思われます」
ゆらゆらとキャンドルライトが、龍の形に揺らめく。
二人は龍の像を目の前にして、魔法陣の中で跪いた。
『あかねが自ら友雅を選ぶなら、何ら問題はない』
「そうなんですけれどねえ…。でも、あの子はちょっとのんびり屋さんだから…」
はあ、と困ったように溜息をついて、彼女は額を押さえて目を閉じた。
「どうにかならないのかしら。あかねに気付かせる方法って、ないのかしら?」
さすがに彼女も、友雅とあかねの関係に痺れを切らしていた。
決してあかねの素直さは嫌味でもないし、寧ろ長所であると思うのだけれど、そろそろ恋を意識しても良い年頃だ。
しかもそんな彼女の極間近に、深く想いを寄せている男がいるのだ。
護る者として命を捧げ、愛する者として心を捧げている彼が。
「私は……結ばれても良いと思うけれど」
心から、そう思った。
自分を護りつつ、女性としても愛してくれる人だなんて、最高ではないだろうか。同じ女性として、そう思う。
「駄目かしら…。あかねを、ちょっと突いてみても駄目?」
「巫女様、本気でございますか?」
彼が口を開いたが、どうやら彼女は本気なようだ。
じっと龍の像を見つめて、その答えを待っている。
いずれはどこかの男性と巡り会い、恋に落ちて結ばれるかもしれない。
それも運命のひとつだし、決して悪いことではないだろう。
でも、もしもその出逢いが、本来の恋の相手を見逃していて…のことだったら?
「知るべきだと思うわ。一番近くにいてくれる恋の相手を。後悔しないように」
もっと早く知っていたら。
もっと早く出会っていたら。
そんな後悔がないとも限らないだろう。
それなら……気付くきっかけを与えても、問題はないんじゃないか。
「はっきりとは告げないわ。さりげなく…彼のことを話題に混ぜてみるわ。そうして、自ら気付けるようにするだけだから…」
あとは、あかねの心次第。
例え友雅の心を知ろうと、嫌なら選ばなければ良いだけのことだ。
『そこまで手を貸したいか』
「女ですもの。女は恋をしたいものですよ」
心が満たされるには、恋が必要。
世界の平穏を保つという、重大な任務を持っているからこそ…そばで抱きしめて、愛してくれる人がいたら、と。
彼女自身も、夫になる皇太子との恋がなかったら、毎日が辛かったと思う。
だから、あかねにも恋をして欲しい。
『……最低限で止める。これは絶対に厳守だ』
「それじゃ、許可していただけるのね?」
『そうしてあかねが幸福になるのなら、構わぬ。どんなことがあろうと、既にあかねは上級巫女になる者として、選ばれたのだからな』
龍自ら、彼女を認めた。
次期上級巫女として、あかねを認める------と。
『幸福にさせるのも我からの加護ならば、あとは任せる』
「もちろんですよ。きっと…後悔することはないですわよ」
彼女が満足そうに微笑むと、そばにいた彼も静かに頷いて笑みを浮かばせた。
+++++
随分と遅くなってしまった。
バーで少し飲むだけのつもりだったのに、まさか彼女たちに出くわすとは。
「ま、おかげで腕も完治したし。良かったとしようか」
左腕は激しく動かしても、びくともしないし痛みも全くなかった。
薬で若干感じていたぎこちなさも消えて、以前の腕そのままに戻ったかのようだ。
これで、あかねに心配させなくて済む。
どんなことが起こっても、もうこの腕が痛むことはないと思うと、心から安堵感が押し寄せてきた。
部屋の近くまで来ると、ドアの透き間からうっすらと中の明かりが漏れていた。
もうかなり遅い時間だが、もしや自分の帰宅を待っていたのでは。
友雅は足音を忍ばせ、そうっと部屋のドアを開けた。
「あかね殿?」
部屋に入って彼女の名を呼んだが、返事は戻ってこなかった。
しかし、この時間に彼女が留守をするはずはないし、どこかにいるはず。
…と思っていると、バスルームの明かりが皓々と付いていて、僅かに湯気が漏れてきている。
「バスを使っているのか」
納得してその場を後にしようとした友雅だったが、ふと出ていく時のことを思い出した。
確かあの時、外出してくるからその間にバスルームを使って、と言ったはず。
それから1時間以上が過ぎているのに、まだ入っているのはおかしくないか。
まさか逆上せて倒れているとか…じゃないよね?
立ち去ろうとしたが、すぐに引き返してバスルームのドアのノブを引いた。
雲のように立ちこめる湯気が、脱衣所にまで充満している。
更にもう一枚のドアの向こうから、シャーッとシャワーが流れ続ける音が、ひっきりなしに聞こえている。
正直色々な気持ちが混在しているが、もしものことを考えたらこのままにはしておけない。
思い切って友雅は、取っ手を握り浴室へのドアを開けようとした。
だが、同時に脱衣所のドアが開く。
「あかね様!お着替えとタオルを……っ…きゃあーーーーーーーーーっ!!!!」
少女の甲高い声が、大理石の脱衣所にガンガンと反響する。
まるで耳元で大きな鐘を鳴らされたような、かなり耳に痛い音量である。
もちろん、その声の主は藤姫だ。
せっかく綺麗に畳んだあかねの着替えとタオルも、驚いたおかげでその場にぶちまけて。
「何をなさってるんですかーっ!きゃーっ!」
「いや、落ち着きなさい。今、あかね殿が中で…」
ガラリ
「藤姫ちゃん、どうしたの?タオル、持ってきてくれた?」
浴室の湯気までもが流れ込み、一気にまたも湯気が立ちこめる。
もくもくと雲に包まれ、蒸気で辺り一面が雫で覆われて。
その中に…薔薇色に染まった肌を、湯に濡らした艶やかな身体が露わになる。
「き、き、き……」
震えるような声がいくつか続いて。
「きゃーーーーっ!きゃーーーーっ!」
さっきよりも大きな声が、ウワンウワンと浴室に響き渡った。
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