遠い未来で

 001
「もう、ホントにー!何回も言ってるでしょ?」
そう、何度も同じ事を言われている。
この現代に戻ってきてから、あかねは何度となく同じ言葉を頼久に言っている。
「だ・か・らね!もう私は『龍神の神子』じゃないんだよ?だから、『神子殿』なんて呼ばないように、って、もう何度も言ってるよね?」
「そう……なのですけども……」
決まりが悪そうな目をして、頼久は頭をかいた。


生まれ育った時代の中で、背中まで届くほど延ばした髪は、今では肩にさえかからない。別世界の空気が首筋に当たって、少し寒い気がした。
「なんだか、私にしっくりこないんだもん。今だから言っちゃうけど、ホントは全然慣れなかったんだよ。そういう風に呼ばれたことに。」
あかねはテーブルを挟んだ向こう側に、頬杖をついて頼久の顔を見ている。

「私は私だし。それ以外なんでもないし。確かにあの時、本当に京を守りたいと思ったけど、それは私が龍神の神子だからってわけじゃないんだもの。私が選んだ答えだもの。誰が決めたんじゃないもの」
あかねは、無色透明のグラスの中に刺さっているストローを指先で揺らす。
鈴の音に似た、軽やかな音がする。

「だから、私は私。『元宮あかね』。もう覚えてくれた?名前」

頼久の表情に、笑みが戻った。

「あなたの時代にやってきて良かった」
笑顔を受け止めて、顔が赤く染まる。
「頼久さ〜ん☆こんなところで恥ずかしいこと言わないでよ〜☆」
両手をじたばたするあかねの動きは、からくり人形のようで愛らしいと思った。
「あなたと離れなくて、本当に……」
「ストーップ!!それ以上はここで言ってはダメっ!!!」

染まりつつあるあかねの頬の色は、桜の花の色に似ている。





-----THE END-----




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Megumi,Ka

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