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硝子の夜の夢
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毎年のことであるが、この時期になるとあちこちで夏祭りが始まる。
いつもは洒落た飾りで彩られている町並みも、ぐっと和風に早変わりして、提灯や風鈴など…昔ながらの夏の風物詩が登場する。
「祭り?どこの御霊を供養するのだ?」
「いや、別にそこまでするわけじゃないんですけどー…」
元を正せば、そういう由来に辿り着くものなのだろうが、単に楽しみだけのため、というものも最近は多い。
だが、神社の祭りと言えば、そう当たらずとも遠からずだろう。
「行ってみませんか?今週の土曜日の夜にでも。」
「夜に祈祷でもするのか?」
「だから、そーいうことじゃなくって…」
これは説明をするよりも、連れて行った方が話が早そうだ。
+++++
「おい、あれは一体何だ?」
泰明が指を指した方向には、屋台の列が参道を埋め尽くしている。
子供たちがそれらに群がって、随分と賑わっているようだ。
「あればりんご飴です。小さな林檎に飴を掛けて…って、泰明さんー!?」
あれは何かと聞いておいて、説明の途中で彼は屋台に向かって歩いて行く。
そして、客の子供たちに紛れては、並べられているりんご飴を、珍しそうに眺めている。
「あのさあ、お客さん、どれ買うの?」
屋台の主人が話しかけているのだが、聞こえないのか無視しているのか、赤や緑のりんご飴を凝視したまま動かない。
「あ、あのっ!すいません!その赤いの2つ下さいっ!」
慌てて駆けつけたあかねは、構わず目の前にあったりんご飴を二つ買って、泰明の腕を引っ張りながら店から離れた。
「甘いな」
彼女に言われた通り、ひと口りんご飴をかじった泰明は、開口一番にそう感想を述べた。
「これは林檎なのか?それとも飴なのか?」
「えーとですね、林檎を、砂糖を煮溶かした飴にくぐらせたものです。」
「…林檎にしては、色が赤すぎる。こんな色の林檎が、こちらでは普通なのか?」
「あ、それは色々と着色をしたりして…」
…はあ、やれやれ。
こちらの祭りなんて、彼は全くの初体験だろうと思い、楽しんでもらおうと連れて来たのだが、こういう時の泰明の好奇心は計り知れない。
確かに、屋台で売っているものは、泰明には珍しくて興味をそそられるのだろう。
りんご飴にしろ、ベビーカステラにしろ、京では見たことも無いものばかりだ。
それに、向こうの世界で"祭り"と言えば、もっと儀式的なもので荘厳なものだったから、こんな風に子供たちが楽しそうにはしゃいでいるのも、不思議に映るのかもしれない。
まあ、理由はどうあれど、それだけ興味津々ということは、楽しいからだろうし。
それなら、彼を誘った甲斐があったというものだ。
「あかね、向こうにあるものは何だ?」
気付くと泰明は既に先に進んでいて、新しい屋台を指差してこちらを見ている。
「はいはい、ちょっと待ってくださいよー」
そう言いながらりんご飴を片手に、あかねは彼のところへ駆けて行った。
本堂へは少し列が出来ていて、しばらく二人は並んで待つ事にした。
だが、そんな時でも泰明の好奇心が落ち着くはずもなく。
周囲を見渡して、また何かが彼のアンテナに引っかかったらしい。
「何故、あんなに面が売っているんだ?」
「え?あ、はあ…まあ、それもおまつりの名物ってことで」
マンガやアニメのキャラクターたちの顔をかたどった、お面がずらりと並ぶ店を指差して、泰明は言った。
「あんなものを、子供が買って何に使うんだ」
「さあ…それを言われると、何とも言えないんですけどねえ…」
小さい頃には、必ずと言って良いほどヒロイン系のお面を欲しがったけれど。
まあ、変身願望みたいなものだろうか。
男の子がヒーローごっこをするみたいに、魔法少女の真似してみたかったとか。
「幼い子供が、呪いにでも使うのだろうか…よく分からんな。」
某ロボットアニメに出て来る、コーディネーターのキャラの面を、しげしげと眺めながら泰明は首を傾げていた。
参拝を済ませて本堂を出ると、木陰ではしゃいでいる浴衣姿の男女がいた。
手には白い小さな紙。
辺りを見渡すと、周囲の枝には白いリボンのようなものが結ばれている。
「えー、小吉って微妙〜!」
「俺、大吉ー!」
おみくじの話題で盛り上がっているらしい。神社には、ありがちな光景だ。
それを黙って眺めている泰明を見て、今度はあかねが先に声を掛けた。
「あれは、一種の占いです。箱を振って出て来た棒に数字が書いてあって、その数字の占いの内容をもらうんです。」
「その方法では、同じ運気が何度も出てしまうだろうが。」
「そりゃそうなんですけど。まあ、ちょっとしたお遊びみたいなもので…深刻な占いってわけじゃないんで。」
泰明の生まれ育った京では、占いが一年の行動までもを左右する重要なもの。
陰陽師である彼は、自らその中に立ち会って来たのだから、気軽に占いを楽しむ感覚は馴染めないのかもしれない。
「理由はどうあれ、良い結果が出れば気分も良いじゃないですか。」
枝に結ばれたおみくじを指差して、あかねはそう答えた。
「おまえは…相変わらず前向きな娘だ。」
あちらの世界に飛び込んで来たときは、それこそ頼り無さげで逃げ出しそうだったのに、いつのまにかしっかりと自分の足で大地を踏みしめて。
気付いた時には、こっちが引っ張り上げられる始末。
普通の人間とは違うことに、知らず知らずコンプレックスを持っていた自分を、遠慮することなく背中を叩き、そして手を取って。
世界はもっと広いものだ、と教えてくれたのは、そんな彼女だ。
「あかねは、くじを引かないのか?」
「私ですか?私は、お正月だけって決めてるんです。」
初詣の時に、一年の運勢を占うために引くだけ。何度引いたって意味ないし。
「その時の運気は、どうだったんだ」
確かあれは…
「無難に中吉でした。でも、ちょっとした波乱に満ちた事が起こるかも、って書いてあったかな。」
まさに、人生を狂わせるような事が起こった。
ほんの数ヶ月、次元を超えて別世界へ。
いろいろな出会いがあって、そして……。
「あ、そういえば……」
その中に書いてあった、年頃の女の子が一番気にしている運勢。
"待ち人は---------
『意外な場所にいる。思いもよらない生い立ちを持つ相手』。
隣にいる泰明を、あかねは何も言わずに見上げた。
あの時は、一体どういう相手の事だろう?と思ったけれど、今はそれが誰を指していたのか、よく分かる。
時空の向こうに生まれ、命というものを"創られた"人。
あれは…彼のことを意味していたのだ。
「泰明さん、ここのおみくじって、すごい的中率ですよ!」
急に浴衣の袖を掴んで、はっきりと断言したあかねに、泰明は少しだけ驚いた。
「何故、そう言い切れる」
「それは、私が百発百中だったからです!自信持っても良いですよ!?」
あなたと出会えた事が、それを物語る。
そしてあなたは、ここにいてくれるのだから。
「そこまで言うなら、来年はおまえと一緒に初詣とやらに来て、私もそのくじを引いてみよう。」
今年の初めは出会えなかったけれど、これからはずっと一緒に生きて行ける。
別の世界ではなく、同じ世界で。
「まあ、おまえの共に生きると決めたのだから、おまえの運が私の運だろうがな」
見逃してしまうほどの、ほのかに優しい微笑みを浮かべて、泰明は結ばれたくじに手を伸ばして、そう言った。
「ところで。さっきおまえが買ったそれが、どうも気になって仕方がない。」
せっかくしっとりしたムードに浸っていたかと思うと、ガラリと泰明は元に戻って、あかねの手にある綿菓子の袋を指差した。
「綿のように柔らかそうなのに、それも飴なのか?」
「そうですよー。口の中ですーって溶けちゃう飴なんです。」
屋台で作っているのを、まじまじと真剣な顔をして見ていた泰明を思い出すと、今にも吹き出してしまいそうだ。
「じゃ、食べながら帰りましょうか」
袋を開けて、二人でひとつかみずつちぎって。
懐かしい甘さを味わいながら、手をつないで歩く。
これからの二人を、思い描きながら。
-----THE END-----
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