数時間後、講座が終了。
出来上がったスイーツの試食タイムとなった。
「不思議。前に同じようなレシピで作った時と全然違う!マジでスイーツなんだけど!」
薬剤師の女性はお菓子作りが趣味で、こういったものも作ったことがあるらしいがイマイチだったらしい。しかし今回は普通のスイーツと変わらないどころか、高級感のある濃厚な味に仕上がっている。
「所々コツを説明してくれたから、そういうところが大切なのかもですね」
「だねー。やっぱりプロは違うね!」
思った以上にレシピは簡単で、材料も手に入りやすいので気軽に作れそうでもある。
「これから定番おやつにしようっと。もちろん自分用に」
「私も。あかねは…取り敢えずバレンタイン用にでしょ?」
「え、普通に食後のデザート用に作ろうと思いますけど」
「ちょっと〜!そこは旦那様へのプレゼントって言いなさいよ!」
「だよ!先生拗ねちゃうじゃん。可哀想でしょ!」
何故か周囲から同情されている友雅。
そんなあかねの様子を見て笑っている詩紋。
「一緒に住んでるんだしバレンタインの日のデザートにすれは同じですよ」
張り合いないなぁと賑やかな雰囲気の中、料理講座は幕を閉じた。
今年の2月14日は土曜日だった。
病院自体は土日祝休みだが、医師や看護師は交代制で勤務になる。
「もう少し早く休みが分かっていれば小旅行くらい出来たのにね」
「すいません急に予定変更しちゃって」
元々あかねは出勤の予定だった。しかし同僚の子どもがインフルエンザに罹ってしまい、数日休むことになったため予定が変わってしまったのだった。
「結果的に一緒の休日になったのだからOKだよ」
やがて車は高速を途中で降りて、緑溢れる山道へと向かっていく。
いつもは湾岸エリアに近いショッピングモールに買い出しに行くのだが、今日は気分を変えて山村の道の駅や直売所へ。
比較的オシャレな雰囲気のモールとは違い、新鮮な地場野菜など品揃えも多いということで意外とそこそこ混んでいた。
「わぁ、手作りのジャムいっぱいある!いくつか欲しいな」
定番のいちごやブルーベリーの他、コケモモやクルミバターなど珍しいものが並ぶ。その隣には全粒粉のパンやクッキーなども。
「ワインもあるのだね。地元産のぶどう使用か…味見に一本買っても良いかな」
街中のデリカテッセンに華やかさは及ばないものの、購買意欲をそそられる物が豊富でいつのまにかレジカゴ2個が満杯に。
「大きめのクーラーボックス持ってきてよかった〜…え、なんですか?」
レジの列に並んでいると、友雅があかねの肩を叩いた。
振り向くと彼がテラス側を指差している。そこにはソフトクリームのコーナーが。
「私が並んでいるから行っておいで」
こういうところのソフトクリームには目がないあかねは、まずスルーすることは出来ない。例え雪が降るような冬場であっても。
友雅のお言葉に甘えて、あかねはソフトクリームコーナーにやってきた。
地元牧場のフレッシュミルク使用と書かれていて、味も数種類あり当然ながら迷う。
新鮮なミルクを味わうノーマルで行くか、いちご農家のストロベリーや茶畑の茶葉を使った抹茶味、ベルギーチョコを使ったチョコ味……。
今日バレンタインだし…チョコがいいかなぁ。
「あれっ、あかね!?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれて顔を上げると、内科の同僚看護師だった。
「えっどうしてここにいるの?」
「それはこっちの台詞よ。1人で来た…わけないよね」
キョロキョロ見渡すと、レジの列に嫌でも目立つ長身の男性の姿があった。
「ちょっといつもとは違うとこに買い出しに行こうと思って、こないだテレビで見たから来てみたんだけど」
「へえー、そうなんだ」
彼女はまじまじと友雅見ている。
普段病院で見る彼は白衣を着ていて、見映えは良すぎだが医師らしさはある。
しかし今は完全なるプライベートな時間であり、ここは私生活の一場面でもある。
そうか、彼もこんな風に普段は買い物に出掛けたりしているんだな。
何となく日常が想像できない感じがあったが、意外と普通の生活しているんだ…とか思ったりしてしまった。
精算を済ませた友雅が、カートを押しながらこちらにやって来る。
「ん?確か内科の…だったよね?」
「あっ、こんにちは橘先生!」
黒のタートルネックにジーンズと、意外にもラフなファッション。妙にこういう格好も様になっている。
「ソフトクリーム、もう食べ終わったのかい?」
「まさか!これから買うとこですよ」
チョコ味は定番だけど、ベルギーチョコを使用してるのは冬限定だよ、と同僚に言われたら、すぐに迷いが吹っ切れた。
「友雅さんも買います?」
「私は一口味見で良いよ」
そんな2人のやりとり。
職場では一応ビジネスムードを保っているっぽいが、普段はやはり夫婦らしいんだな。いや、夫婦と言うよりもまだ恋人同士みたいな感じが…。
少し大きめのチョコソフトMサイズを購入。
「じゃあまた来週ね」
そう言ってソフトクリームを舐めながら、2人は駐車場へと向かって行った。
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