Midnight Tea Time  
「あと1時間で日付が変わる午後11時。
子どもたちは既に眠りにつき、祥穂も二階の自室へ下がった。
賑やかだったリビングは閑散としているが、その静けさが二人で過ごすには丁度良い。

「お酒にしますか?」
「いや、明日は仕事だからお茶にしておくよ」
「じゃあカフェインレスにしますね」
そう答えて、あかねはルイボスティーの缶に手を伸ばす。
少し大盛りのスプーンに二杯の茶葉をすくい、ポットに入れて湧きたてのお湯をゆっくりと注ぐ。
冷蔵庫から取り出したトリュフチョコレートを三個ずつ、クッキーとソルトクラッカーにジャムとクリームチーズを添えて。
「チーズがあるなら生ハムも良いかな」
「やっぱりお茶よりお酒の方が合いそうなラインナップですねぇ」
そんなやり取りで笑いながら、二人はリビングへと移動した。

ソファに並んで腰を下ろし、ルイボスティーで身体の中を暖める。
プレートの上にあるトリュフチョコを一粒、あかねがつまんで口に入れた。
「うわぁ。中からチョコソースが溶け出して来た!」
柔らかなガナッシュが舌の上で崩れると、中から濃厚なチョコレートソースが溢れ出す。
ほんのりラム酒の香りがあり、優雅な風味が口いっぱいに広がった。
「あかねはフォンダンショコラは好きだから、多分気に入ってくれるのではと思ったけど当たりだったようだね」
友雅の言葉に、あかねは満足そうに首を縦に振る。
昔からチョコレートケーキが好きで、中でもフォンダンショコラがお気に入り。
デートの時によく選んでいて、いつも嬉しそうに味わっていたのが忘れられない。

ホワイトデーには文紀と連名で、バレンタインのお返しを選ぶ。
祥穂を含めた家族全員に缶入りクッキーを贈ったが、彼にとってあかねは特別なので特別にトリュフチョコを。
「皆には内密にね」
「大丈夫ですよ、あの子たちそういうことは物わかり良いから」
女の子は大人びるのが早い。
特に、恋心を知っている子なら尚更に。

「千歳も詩紋くんからのケーキ、喜んでたじゃないですか」
届けられたホワイトデーの贈り物。
あかねやまゆきの分は一つの箱にまとめられていたが、千歳へのケーキは彼女の名前で記されていた。
明らかに千歳だけ特別仕様と分かる贈り物。
「そりゃ好きな人が贔屓してくれたら嬉しいに決まってますよ」
「ということは、あかねもそうだと思って良いのだね?」
肩に手を回し顔を近づけて返事を請う友雅に、もうひとつチョコをつまんで彼の口の中へ…と思わせてフェイントで自分の口へ。
溶け出さないうちに、急いで口移しで彼に味わってもらう。
「こんなに美味いチョコだとは思わなかったな」
「もうひとつ食べますか?」
「いくらでも。ただし同じように食べさせてもらいたいね」


みんなが夢を見ている時間。
二人は秘密の夢を見る。
甘美で、魅惑的で、やみつきになりそうなティータイム。
カフェインレスのお茶でも、きっとまだまだ眠れそうにない。



----------------THE END









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