恋歌綴り

 001
「強くなりたい」。
そう初めて思ったのは、まだ剣を握ることに慣れていなかった幼い日の私だった。
父と兄の背中を追いかけながら、いつかこの手に剣が馴染む時を夢見ていた。

昔から、そうだった。そして今も、そう思っている。
強さが欲しい。剣の術ではない、もっと強いものが私の中に欲しい。
何故、そんな風に思うようになったのだろう。
神子殿、あなたはその意味をご存じでおられるのでしょうか。

私はずっと、主という絶対的な方に誠を誓うために生きるものだと思っていた。
主のお命を護るのであるのなら、この命を盾にしても本望だと。
それが、私の役目だと思っていた。
この剣で主を護り、そして迫りくる者たちを切り捨て…この剣が血を吸おうとも、
私が血に濡れることがあろうとも、主を護ることが出きるのなら、それで良いと、
そう信じていた。

神子殿、でも、今は………。

私は生きたいと思う。
貴方をお護りすること、それが私のお役目だと分かってはおります。
命に代えてでも、貴方をお護りしたい。
しかし、命を落としたくない。だから強くなりたい。
もっと強く、貴方を護り、そしてこれからの時間の中で、共に過ごして行ける時が
少しでも長くあって欲しいと、私はそう願っている。

神子殿、貴方のために、強くなりたい。
私の中に、春の桜の花びらのように舞い込んできた、貴方のそばにいたい。
これからずっと、貴方をお護りするのは、私であって欲しい。

心が、広がって行く。
貴方のそばで目を閉じると、穏やかな風が流れてくる。
そして、貴方がここにいることを感じる。

ずっとこのまま、貴方を離したくないと、そんな戯言をつぶやく私を、
神子殿はどんな風にお思いでしょう。
いつものように、無邪気に笑みを浮かべて下さるでしょうか。

その笑みだけで、十分なのです。
貴方が笑顔で過ごせることが、私はとても嬉しく思う。
貴方の瞳からこぼれる涙は、見たくない。
その笑みのために、私はここにいる。
貴方の笑顔を護ることが、私の使命でもあるのだから。

…その笑顔を、いつか手にすることができたら…。

桜が舞い始める時期が近づいています。
せめて貴方への想いを、この花びらに込めて風へ散らして…。

神子殿、貴方はいつ、お気づきになるだろう。


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Megumi,Ka

suga